アスパルテームとは「IARC 2B分類とADI 40mg/kgが同時に成り立つ理由」

アスパルテームはL-アスパラギン酸とL-フェニルアラニンからなる合成甘味料である。IARCは2023年にグループ2B(発がん性がある可能性がある)へ分類し、JECFAはADI 40mg/kg体重/日を維持する。両者の評価対象の違い、フェニルケトン尿症患者への表示義務、プロテインでの使用実態を整理する。

本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。

IARC(国際がん研究機関)は2023年、アスパルテームを「グループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)」に分類した(IARC(2023))。同じ月、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)は既存のADI(1日摂取許容量)40mg/kg体重/日を変更する必要はないと結論している(JECFA(2023))。IARCが評価したのは「発がん性の証拠の強さ」であり、JECFAが評価したのは「実際の摂取量に基づくリスクの大きさ」で、両者は評価対象が違う。

アスパルテームとは何か — 構造と体内での代謝

アスパルテームは、L-アスパラギン酸とL-フェニルアラニンという2つのアミノ酸が結合したジペプチドのメチルエステルである。砂糖の180〜200倍の甘さを持ちながらカロリーはごくわずかで、清涼飲料水やプロテイン製品の低カロリー化に使われてきた合成甘味料だ。消化管に入るとすぐに加水分解され、アスパラギン酸・フェニルアラニン・メタノールの3つに分解される(EFSA(2013))。

いずれも通常の食品に含まれる成分と同じ経路で代謝される点が特徴である。アスパラギン酸とフェニルアラニンは食肉や乳製品にも含まれる一般的なアミノ酸で、メタノールも果物などにごく微量含まれる。分解後は通常のアミノ酸代謝経路に合流するため、アスパルテーム由来という特別な代謝経路が体内に存在するわけではない。

ただしフェニルアラニンの代謝には例外がある。フェニルケトン尿症(PKU)という遺伝性疾患を持つ人は、フェニルアラニンを分解する酵素の働きが弱く、通常の食品由来であってもアスパルテーム由来であっても体内に蓄積しやすい。この体質を持つ人が製品を判別できるよう、日本の食品表示基準はアスパルテームを含む食品に専用の表示を義務付けている。

2023年のIARC分類は何を評価したものか

IARCは2023年6月、リヨンでの専門家会合を経てアスパルテームを「グループ2B」に分類した。根拠とされたのはヒトの肝細胞がんに関する観察研究で、ヒト証拠・実験動物証拠・発がんメカニズム証拠のいずれも「limited evidence(限定的証拠)」という区分にとどまる(IARC(2023))。IARCの分類は発がん性の証拠がどれだけ蓄積しているかを示すハザード同定であり、実際にがんになる確率の大きさを示すリスク評価ではない。

IARCの発がん性分類は4段階に分かれる。グループ1は「ヒトに対する発がん性が十分に証明されている」、グループ2Aは「おそらく発がん性がある」、グループ2Bは「発がん性がある可能性がある」、グループ3は「現時点で分類できない」である。アスパルテームはこのうちグループ2Bに位置づけられた。

2Bという区分だけを見ると危険度が高いように感じるかもしれないが、この分類は証拠の「強さ」の話であって「量」の話ではない。同じグループ2Bには、アロエベラの未脱色葉全体エキスや、アジア式の伝統的な漬物なども含まれる。ただしグループ2Bに至る証拠のパターンは一通りではない。アスパルテームはヒト・動物・メカニズムのいずれも「限定的証拠」という組み合わせで2Bになったが、アロエベラ未脱色葉全体エキスはヒトでの証拠が不十分な一方で動物実験に十分な証拠があるという別の経路で同じ区分に入っている。同じ2Bであっても根拠の構成は異なり、リスクの大きさが同水準という意味でもない。

こうしたIARC評価の背景として参照されうる観察研究の一つに、フランスの前向きコホート研究NutriNet-Santéがある(Debras et al.(2022))。10万人超を7.7年追跡し、人工甘味料摂取量が多い群で全がんリスク・乳がんリスクが有意に高かったと報告した研究で、アスパルテーム摂取と全がんリスクの関連も示されている。ただし著者ら自身が、自己申告の食事調査・選択バイアス・残余交絡・逆因果の可能性という観察研究特有の限界を明記しており、因果関係を証明したものではない。

一方でJECFAは同時期の評価で、既存のADI 40mg/kg体重/日を変更する必要はないと結論した(JECFA(2023))。EFSAも2013年の再評価でADI 40mg/kg体重/日を維持し、現行の摂取量水準で安全性の懸念はないとしている(EFSA(2013))。IARCの「証拠の強さ」の評価と、JECFA・EFSAの「摂取量に基づくリスク」の評価は矛盾するものではなく、問いそのものが異なる。

ADIはどう設定され、実際の摂取量はどの水準か

ADI 40mg/kg体重/日を体重に当てはめると、体重50kgの人は1日2,000mg、60kgの人は1日2,400mgまでが許容範囲という計算になる。この数値はEFSA(2013)が動物慢性毒性試験のNOAEL(無毒性量)4,000mg/kg体重/日に安全係数を適用して設定したものだ。JECFA(2023)も同じ水準を維持している。

日本人の実際のアスパルテーム摂取量については、厚生労働省・食品安全委員会がマーケットバスケット調査などで推定を行っている。調査によって集計区分(平均摂取群か高摂取群かなど)が異なり単純に一つの数字として比較しづらいが、いずれの調査でもADIを大きく下回る水準と推定されている。

体重60kgの人の場合、ADIの上限に達するには1日2,400mgのアスパルテームを摂取する必要がある計算になる。清涼飲料水やプロテインなど個別製品1食あたりの含有量を公開しているメーカーは少ない。判断材料として使えるのは、ADIという上限値と、公的機関が推定した実際の摂取量がその水準を大きく下回っているという2つの事実である。

フェニルケトン尿症の人に表示が必要な理由は何か

日本の食品表示基準では、アスパルテームを含む食品に「L-フェニルアラニン化合物を含む」といった表示が義務付けられている。これは一般の消費者向けの注意喚起ではなく、フェニルケトン尿症(PKU)という遺伝性疾患を持つ人のための表示である。

フェニルケトン尿症の患者は、フェニルアラニンをチロシンへ変換する酵素の働きが先天的に弱いか欠けているため、通常の食品由来であってもフェニルアラニンが体内に蓄積しやすい。高濃度のフェニルアラニンは、特に妊娠中や乳幼児期の神経発達に悪影響を及ぼすリスクが指摘されており、この患者群は摂取量の厳格な管理を必要とする。

EFSA(2013)は、フェニルケトン尿症のヘテロ接合体(保因者)を含めても、ADI水準までの摂取で血中フェニルアラニン濃度の臨床的な指針値を超えないと評価している。それでも表示自体は省略が認められない項目とされており、フェニルケトン尿症の患者が製品を選ぶ際の判断材料として機能している。

プロテイン製品ではどのように使われているか

プロテイン製品でのアスパルテームの使用は、フレーバーによって偏りがある。カカオの苦味を伴うチョコレート・ココア系では他の甘味料と併用される例が比較的多く、フルーツ系やプレーンでは使用頻度が下がる。甘味料構成の主流はスクラロース・アセスルファムK・ステビアで、アスパルテームはこれらとの併用として現れることが多い(各社公式サイトの原材料表示に基づく・2026年7月時点)。市場全体を網羅した調査ではなく、確認できた製品の範囲での傾向である。

この傾向の背景として、アスパルテームの熱・pH安定性の低さが挙げられる。アスパルテームは高温やアルカリ性の条件で分解が進み、甘味を失いやすい性質を持つ。加熱工程を含む製造や高温での長期保存では、スクラロース・アセスルファムKのように熱に安定な甘味料と比べて扱いに制約が生じる。ただしこの物性は代謝の安全性評価とは別の論点であり、分解後のフェニルアラニン等の代謝経路はEFSA(2013)が整理したとおりである。

同じブランドでもフレーバーによって甘味料構成が異なる場合がある(例: あるソイプロテインはバナナ味がステビア、ココア味がアスパルテーム併用)。アスパルテームの使用有無を確認したい場合は、フレーバーごとの原材料表示を個別に確認するのが確実だ。

甘味料の規制上の扱いはどう違うのか

アスパルテームのADI 40mg/kg体重/日は、スクラロース・アセスルファムK(いずれも15mg/kg)やステビア(4mg/kg)より高い数値である(JECFA(2023)、EFSA(2013))。ADIは物質ごとに異なる毒性試験のNOAELと安全係数から個別に算出されるため、数値の大小を甘味料間で比べても安全性の序列にはならない。IARCの分類状況とADIの水準は、そもそも比較する軸が存在しない別の指標である。

甘味料種別ADI(mg/kg体重/日)と設定機関熱・pH安定性代謝経路日本の表示上の扱い
アスパルテーム合成(アミノ酸由来ジペプチド)0-40(JECFA・EFSA)低い(高温・アルカリ性で分解し甘味を喪失)アスパラギン酸・フェニルアラニン・メタノールに加水分解され、通常のアミノ酸代謝経路に合流添加物名表示+「L-フェニルアラニン化合物を含む」表示義務あり
スクラロース合成(ショ糖由来)0-15(JECFA・EFSA)高い(熱・酸に安定)大部分が未吸収のまま排泄、吸収分もほぼ未変化体で排泄添加物名表示(用途名「甘味料」併記)
アセスルファムK合成0-15(EFSA)高い(熱・pH共に安定)体内でほぼ代謝されず未変化体のまま尿中排泄添加物名表示(用途名「甘味料」併記)
ステビア(ステビオール配糖体)天然(植物由来)0-4(ステビオール等量、JECFA・EFSA)高い(熱・pH比較的安定)腸内細菌によりステビオールに分解後吸収・代謝添加物表示が不要な場合あり
羅漢果エキス天然(植物由来)設定なし(FDAのGRAS認定の枠組みで評価される例が多い)高い(熱・pH比較的安定)モグロシド類は主に未吸収または腸内細菌代謝添加物表示が不要な場合あり

※ADIの降順で整理した。ADIの数値は物質ごとの毒性試験から個別に設定されるもので、甘味料間の安全性の順位を示すものではない。データは2026年7月時点の公開情報に基づく。各甘味料の甘味倍率・後味の特徴・採用ブランド数はステビアとはの比較表を参照されたい。

よくある質問

グループ2Bに分類されたのは「発がん性がある」という意味か

グループ2Bは「発がん性がある可能性がある」という区分で、証拠の強さが「limited evidence(限定的)」であることを示す(IARC(2023))。ヒトに対する発がん性を確定的に証明したものではなく、実際の摂取量に基づくリスクの大きさを示す評価でもない。同時期にJECFAはADI 40mg/kg体重/日の変更は不要と結論しており(JECFA(2023))、両者は問いが異なる。

毎日飲むプロテインに入っていたら避けるべきか

ADI 40mg/kg体重/日という上限に対し、日本人の実際のアスパルテーム摂取量は公的機関の推定でこれを大きく下回る水準とされている。プロテイン1食あたりの正確な含有量を公開しているメーカーは少なく、個別の含有量までは断定できない。含有量が気になる場合や持病がある場合は、原材料表示を確認したうえで医師・管理栄養士に相談するのが妥当だ。

「L-フェニルアラニン化合物を含む」という表示は何のためにあるのか

この表示はフェニルケトン尿症(PKU)という遺伝性疾患を持つ人のためのもので、一般消費者への健康警告ではない。フェニルケトン尿症の患者はフェニルアラニンを代謝する酵素の働きが弱く、通常の食品由来でも体内に蓄積しやすいため、摂取量を管理する必要がある。この疾患を持たない人にとっては、成分表示の一つとして参考にする程度でよい。

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参考文献