REDs(旧称 RED-S)とは — スポーツにおける相対的なエネルギー不足の定義と三主徴との違い

IOCが2014年にRED-Sとして提唱し、2023年の合意声明でREDsに表記を改めた相対的エネルギー不足を整理する。エネルギー利用可能性の考え方、30・45 kcal/kg FFM/日の位置づけ、女性アスリートの三主徴との違いを示す。

本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。

REDs(Relative Energy Deficiency in Sport)は、問題のある(長期および/または重度の)低エネルギー利用可能性にさらされることで生じる、生理的・心理的機能の障害の症候群である。女性と男性のアスリートが対象となる。国際オリンピック委員会(IOC)が2014年に RED-S として提唱し、2023年の合意声明で表記を REDs に改めた。医師による臨床評価で診断される症候群である(Mountjoy et al., 2023, British Journal of Sports Medicine)。

REDs(旧称 RED-S)とは何か

Mountjoy et al.(2023, British Journal of Sports Medicine)のIOC合意声明は、REDsを「問題のある低エネルギー利用可能性(low energy availability, LEA)への曝露によって生じる、女性・男性アスリートの生理的・心理的機能の障害の症候群」と定義している。影響を受ける機能として、エネルギー代謝、生殖機能、筋骨格の健康、免疫、グリコーゲン合成、心血管と血液の健康が挙げられ、これらが単独でも相互作用でも、ウェルビーイングの低下、傷害リスクの上昇、競技パフォーマンスの低下につながりうるとされる。

LEAがあれば直ちにREDsになるわけではない。同声明は原因を「問題のある(長期および/または重度の)LEAへの曝露」に限定し、REDsを「臨床的に診断される多因子の症候群」と位置づけた。

表記と定義はどう変わったのか

表記の変遷は声明の本文冒頭に書かれている。

“REDs (altered from the original acronym ‘RED-S’ for improved comprehension and dissemination), was first introduced by the International Olympic Committee (IOC) in a consensus statement in 2014, and was updated in 2018.”

つまり2014年の声明(Mountjoy et al., 2014)と2018年の更新声明(Mountjoy et al., 2018)は「RED-S」、2023年の声明は「REDs」である。

定義の中身も入れ替わった。2014年の声明は代謝率、月経機能、骨の健康、免疫、タンパク質合成、心血管の健康を挙げていた。2023年の定義ではタンパク質合成が列挙から外れ、グリコーゲン合成と血液の健康が加わっている。2014年声明は、この臨床像は三つの要素(triad)ではなく、生理機能の多くの側面に及ぶ症候群だと述べ、女性だけでなく男性にも起こると明記した。

エネルギー利用可能性(EA)とは何か

エネルギー利用可能性(energy availability, EA)は、食事から摂取したエネルギーから運動で消費したエネルギーを引き、除脂肪量(fat-free mass, FFM)で割った値で、単位は kcal/kg FFM/日である(Mountjoy et al., 2023)。式で書くと EA =(摂取エネルギー − 運動による消費エネルギー)÷ 除脂肪量となり、運動の分を差し引いたあとに体の機能維持へ回せるエネルギーを表す。

2023年声明はLEAを、摂取エネルギーと運動消費の差によって身体の総エネルギー必要量が満たされない状態の全般と定義し、影響が軽微な「適応可能な(adaptable)LEA」から、健康とパフォーマンスに大きく長期的な障害が生じうる「問題のある(problematic)LEA」までの連続体として整理した。前者は短期の経験で、軽度かつ速やかに戻るバイオマーカーの変化にとどまるとされる。REDsの原因になるのは後者である。

30・45 kcal/kg FFM/日はどう位置づけられているのか

30と45という数値は、座位中心の女性を対象とした短期の実験室研究に由来する目安で、個人の状態の判定基準ではない。2023年声明が紹介する区分は、体重増加や成長のための高EAが45以上、体重と身体機能の維持に見合うとされたEAが約45、体重・体脂肪の減少に相当する低下したEAが30〜45、健康への影響が生じるLEAが30以下というものだ。この30は「指標としての目安(guide)」であって診断基準(diagnostic end-point)ではないと声明は述べる。

そのうえで声明は、実生活での臨床観察などから、健康やパフォーマンスの問題と関連するEAの水準が個人間、性別間、身体の系統間で大きく異なることが示されたとして、「EAの計算は研究上の介入や観察の参考になりうるが、多くの修飾因子があるため、臨床的に確定した閾値を設けることにはリスクがある」と述べている。モデル図でも、数値による評価に代えて「適応可能」「問題のある」という質的な用語を採用した。

男性についても同様で、REDs関連の症状が出るEAの範囲は女性よりさらに不明確で、より低い可能性があり、一例として約9〜25 kcal/kg FFM/日が挙げられている。自由生活下では摂取量、運動消費、除脂肪量、安静時代謝量の測定誤差が大きく、EAの測定自体にも負担がかかる。

日本スポーツ協会の公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト(2022年版)はLEAを「除脂肪量1 kg当たり30 kcal/日未満」と固定的に記載しており、閾値の扱いは2023年声明と立場が異なる。

女性アスリートの三主徴とどう違うのか

三主徴(Female Athlete Triad)は、2007年・2014年の声明では女性を対象とし、低エネルギー利用可能性・月経機能・骨の健康の3要素のスペクトラムとして定義される。REDsは女性と男性を対象に、LEAを共通の曝露として全身の機能とパフォーマンスへの影響を整理する。Mountjoy et al.(2014)は、三主徴が全身に及ぶ症候群の一部として位置づけられるという立場でRED-Sを提案した。

項目女性アスリートの三主徴REDs(旧称 RED-S)
主な声明(提唱順)ACSMの立場声明(2007)で再定義。Female Athlete Triad Coalition の合意声明(2014)IOC合意声明(2014:RED-S、2018:更新、2023:REDsへ表記変更)
対象運動をする少女・女性(2014年声明)女性・男性のアスリート
中心となる概念低エネルギー利用可能性(摂食障害の有無を問わない)、月経機能障害、低骨密度の3要素のスペクトラム問題のあるLEAへの曝露。EAは曝露を表す変数
含まれる健康影響低EA・月経機能障害・低骨密度の3要素健康概念モデル14項目(生殖機能、骨の健康、消化管機能、エネルギー代謝、血液、免疫、メンタルヘルス、心血管など)とパフォーマンス概念モデル8項目
EAの数値の扱い2014年声明は、運動をする女性が理想的には45 kcal/kg FFM/日以上のエネルギー摂取を目指すと記述2023年声明は、固定の臨床閾値を設けることにリスクがあるとする
評価ツール2014年声明がスクリーニング質問票(11項目)とリスク層別化ポイントシステム(競技参加・復帰の判断)を提示IOC REDs CAT2(スクリーニング、重症度・リスク評価、医師による診断の3段階。4色の信号)

行の並びは、各概念を扱う主な声明の時期の古い順に三主徴、REDsとした。De Souza et al.(2014, Clinical Journal of Sport Medicine)は、三主徴を「運動をする少女・女性に見られ、低EA(摂食障害の有無を問わない)、月経機能障害、低骨密度のうちいずれかを含む医学的状態」と説明し、2007年に低EA、機能性視床下部性無月経、骨粗鬆症の症候群として再定義されたと記している。この2007年の再定義はACSMの立場声明(Nattiv et al., 2007)にあたる。

2014年声明は、三主徴をより広い症候群の一部として図示した。日本スポーツ協会のテキストなど日本の資料では、三主徴とREDsが併記されている。

REDsはどうやって見つけるのか

2023年声明は「REDsに対する単一の検証済みの診断方法は存在しない」と述べ、診断は「REDsの専門性をもつ医師による臨床評価」の結果として下されるとしている。症状や所見の多くはLEA以外の原因でも起こるため、他の原因を除外する鑑別診断が必要とされる。

評価ツールとして声明が示すのが IOC REDs Clinical Assessment Tool バージョン2(CAT2)である。Step 1 のスクリーニング(質問紙や面談)、Step 2 の重症度・リスク評価と層別化(主・副・潜在の指標を用い、潜在の指標は採点の対象外)、Step 3 の医師による診断と治療計画の3段階で構成され、結果は緑・黄・橙・赤の4色の信号で示され、各色に競技参加についての推奨が付く。2015年の初代CATは3色だった(Mountjoy et al., 2023)。CAT2の開発と妥当性検証は、Stellingwerff et al.(2023)のレビューにまとめられている。

CAT2は診断を担う医師を含む多職種チームが使う臨床ツールで、声明は、図に示された指針を単独では用いず、診断のみにも用いない旨を注記している。身体組成の評価については、18歳未満では医学的目的以外では推奨されていない。

三主徴の定義が示すとおり、低EAは摂食障害の有無を問わず生じる(De Souza et al., 2014)。2023年声明は、診断を医師による臨床評価とし、CAT2を医師を含む多職種チームが使うツールと位置づけており、気になる症状や摂食障害の既往・懸念がある場合の相談先には、医師や公認スポーツ栄養士などの専門家がある。

よくある質問

男性アスリートにもREDsは起こるのか

2023年声明は、REDsの対象に男性アスリートを含めている。ただし2018〜2022年に発表された原著のうち男性を含むものは約20%にとどまり、効果の大きさや閾値が性別で異なる可能性も指摘されている。声明が整理した、LEA・REDsを扱った研究の推定有病率は、女性で23〜79.5%、男性で15〜70%と幅が大きく、研究方法のばらつきを反映している。

男性持久系アスリート108名(ランナー、自転車、トライアスロン)を調べたLane et al.(2019, Medicina)では、女性由来のEAカットポイントを当てはめると、at risk(30以下)が47.2%、moderate risk(30〜45)が33.3%、no risk が19.4%だった。これは「女性の基準を当てた場合の分布」であって、男性のREDs有病率ではない。除脂肪量は推定値で、食事・運動の記録は自己申告であり、著者自身も男性のカットポイントは未評価だと注記している。

体重が安定していればエネルギー利用可能性は十分といえるのか

三主徴の合意声明であるDe Souza et al.(2014, Clinical Journal of Sport Medicine)は、エネルギーバランスが取れている(体重が安定している)状態でも低EAでありうるという文脈で、“a stable body weight should not be used as an indicator of adequate EA” と述べている。体重が安定していることは、EAが十分であることの指標にならないということだ。

REDsの文脈でタンパク質の摂取量は論点になるのか

2023年声明が問題の中心に置くのは、運動消費に対する摂取エネルギー全体の不足である。あわせて、LEAを扱った介入研究の大半では炭水化物摂取量の25〜60%の低下が伴っており、低炭水化物利用可能性がLEAとは独立に、あるいはLEAを増幅して影響しうると述べている。タンパク質の摂取量は、修飾因子の1つや、筋タンパク質合成の低下を鑑別する際の項目として挙げられているが、問題の中心には置かれていない(Mountjoy et al., 2023)。

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参考文献