WADA禁止表とは — 常時禁止・競技会時禁止の区分とサプリメント汚染の関係
WADA禁止表(Prohibited List)は毎年1月1日に発効する国際基準で、常時禁止・競技会時のみ禁止・特定競技で禁止の3区分を持つ。2026年版の区分、TUE、サプリメント汚染の研究データ、認証の検査範囲を整理する。
WADA禁止表(Prohibited List)は、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)が毎年改定し1月1日に発効する国際基準で、常時禁止(S0〜S5・M1〜M3)、競技会時のみ禁止(S6〜S9)、特定競技で禁止(P1)の3区分で物質と方法を定めている。本記事の区分・物質・閾値は2026年版(2026年1月1日発効・同年12月31日まで有効)による。サプリメントが表示にない禁止物質を含んでいたとする報告があり、2000〜2001年購入の634製品をステロイドに限って分析した国際調査では94製品(14.8%)、疑いのある製品を選んだ研究も含む2022年のレビューでは3,132製品中875製品(27.9%)と、調査の条件によって数値が異なる。
WADA禁止表とは何か
WADA禁止表(Prohibited List)は、競技会時または競技会外で使用が禁止される物質と方法を列挙した国際基準である。WADA(2026)の原文には「The List is updated annually following an extensive consultation process facilitated by WADA」とあり、毎年改定される。2026年版の発効日は2026年1月1日で、同年12月31日まで有効である。翌年版も1月1日に発効するため、2027年以降は新しい版で区分や物質を確かめることになる。
禁止表の項目は記号で整理されている。物質はS(Substances)で、S0からS9まで10区分。方法はM(Methods)で、M1からM3まで3区分。特定の競技でのみ禁止される物質はP(Particular sports)で、現行版ではP1(ベータ遮断薬)の1区分である。
日本ではJADA(日本アンチ・ドーピング機構)が日本語版の禁止表国際基準を公開している。物質名は版によって例示が入れ替わるため、検索で出てくる解説は発行年の確認が要る。たとえばS1の「エステル類を含む」という明記や、M1.4の一酸化炭素(非診断目的の使用)は2026年版での変更点である(JADA資料)。
禁止表の物質は「including but not limited to」の形で書かれ、例示された物質以外にも、類似の化学構造や類似の生物学的作用をもつ物質が対象になり得る。禁止表を一覧として暗記するのではなく、区分ごとの定義で読む必要があるのはこのためである。
禁止表にはどんな物質・方法が載っているのか
2026年版の禁止表は、常時禁止のS0〜S5とM1〜M3、競技会時のみ禁止のS6〜S9、特定競技で禁止のP1に分かれる。名称はWADA(2026)の原文とJADA(2026)の日本語版の見出しによる。
| 区分 | WADA原文(2026年版) | 日本語名(JADA版) | 適用 | 代表例(原文記載) |
|---|---|---|---|---|
| S0 | Non-approved substances | 無承認物質 | 常時 | BPC-157、2,4-dinitrophenol(DNP) |
| S1 | Anabolic agents | 蛋白同化薬 | 常時 | testosterone、nandrolone、stanozolol、clenbuterol、ostarine、ligandrol |
| S2 | Peptide hormones, growth factors, related substances, and mimetics | ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質 | 常時 | (本表では例示しない) |
| S3 | Beta-2 agonists | ベータ2作用薬 | 常時 | (本表では例示しない) |
| S4 | Hormone and metabolic modulators | ホルモン調節薬および代謝調節薬 | 常時 | (本表では例示しない) |
| S5 | Diuretics and masking agents | 利尿薬および隠蔽薬 | 常時 | (本表では例示しない) |
| M1 | Manipulation of blood and blood components | 血液および血液成分の操作 | 常時 | 輸血、酸素運搬の人為的強化、一酸化炭素の非診断目的の使用(M1.4) |
| M2 | Chemical and physical manipulation | 化学的および物理的操作 | 常時 | 検体のすり替え・改ざん、100mL/12時間を超える静脈内注入(病院での治療等を除く) |
| M3 | Gene and cell doping | 遺伝子および細胞ドーピング | 常時 | 核酸・遺伝子編集、細胞・細胞成分 |
| S6 | Stimulants | 興奮薬 | 競技会時のみ | amphetamine、modafinil、cocaine(S6.A)、sibutramine、1,3-DMAA、octodrine、methylphenidate、ephedrine(S6.B) |
| S7 | Narcotics | 麻薬 | 競技会時のみ | morphine、fentanyl、oxycodone、tramadol |
| S8 | Cannabinoids | カンナビノイド | 競技会時のみ | 大麻、天然・合成THC、合成カンナビノイド(例外: cannabidiol) |
| S9 | Glucocorticoids | 糖質コルチコイド | 競技会時のみ | prednisolone、dexamethasone(注射・経口・経直腸で禁止) |
| P1 | Beta-blockers | ベータ遮断薬 | 特定競技 | atenolol、propranolol |
P1の対象競技は、アーチェリー、自動車、ビリヤード、ダーツ、ゴルフ、ミニゴルフ、射撃、水中スポーツである。多くは競技会時のみの禁止だが、アーチェリー、射撃、水中スポーツは競技会外でも禁止される(原文の脚注)。S9の吸入や皮膚への使用は、承認用量・適応の範囲内であれば禁止の対象外とされる。
原文は物質を「特定物質(Specified)」と「非特定物質」にも分けている。S0・S3・S5・S7・S8・S9・P1の全物質、S4.1・S4.2、S6.A以外のS6が特定物質で、S1・S2の全物質、S4.3・S4.4、S6.Aは非特定物質である。原文には、特定物質は意図せず摂取された可能性が相対的に高い物質という位置づけであり、重要度が低いという意味ではないとの注記がある。
禁止表はいつ・誰に適用されるのか
常時禁止の区分は競技会時・競技会外のどちらでも禁止で、競技会時のみ禁止の区分は競技会の期間中だけ禁止される。WADA(2026)の定義では、競技会時とは原則として、選手が出場予定の競技会の前日午後11時59分から、その競技会および検体採取手続の終了までを指す。WADAが別の期間を承認した競技は除かれる。
つまりS6〜S9の物質は、競技会の外であれば禁止表上の禁止には当たらない。一方でS1の蛋白同化薬のように、競技会外でも常に禁止される区分がある。同じ物質でも、使用した時点が競技会時かどうかで扱いが変わる。
治療目的で禁止物質・禁止方法を使う必要がある選手のために、TUE(Therapeutic Use Exemption、治療使用特例)という制度がある。日本ではJADAのTUE委員会が審査する。WADAのTUE国際基準(ISTUE)の2016年版・2019年版の条文では、①使用しないと健康に重大な影響が出る、②治療上の合理的な代替がない、③健康状態を取り戻す以上の競技力向上効果が見込まれない、④TUEを得ずに行った禁止物質・禁止方法の過去の使用の結果ではない、の4条件をすべて満たすことが求められる。
JADAの資料では、国際レベルの選手は大会の30日前まで、国内レベルの選手は国内でTUEの事前申請が必要な大会について原則30日前までとされている。緊急治療では治療後に申請する遡及的な申請もあり、期限と申請先は選手のカテゴリーで異なる。個別の服薬は、JADA、公認スポーツファーマシスト、医師、所属する競技団体に確認する事項である。薬ごとの可否は、JADAが案内するGlobal DRO(医薬品の検索サイト)で調べられる。
禁止物質でないものも、禁止表と並んで公表される監視プログラム(Monitoring Program)に載ることがある。2026年版の監視プログラムには、競技会時の興奮薬としてbupropion、caffeine、nicotine、phenylephrine、phenylpropanolamine、pipradrol、synephrineが掲載されており(ほかにecdysteroneなども載る)、これらは禁止物質ではない。pseudoephedrineは尿中濃度が150 µg/mLを超えた場合、ephedrineとmethylephedrineは同10 µg/mLを超えた場合に禁止される(いずれもS6・競技会時)。
サプリメントの汚染はどの程度報告されているのか
サプリメントの汚染率は、調査ごとに対象製品の選び方・分析した物質・実施時期が異なるため、1つの値には決まらない。報告された数値は、2004年の国際調査の14.8%から、系統的レビューが示す研究ごとの12〜58%、2026年のレビューの約9〜15%まで幅がある。
| 研究 | 種別 | 対象・期間 | 数値 | 留保 |
|---|---|---|---|---|
| Geyer ら(2004) | 製品の分析 | 13か国215社から購入した非ホルモン系栄養補助食品634製品(購入は2000年10月〜2001年11月)。アナボリックアンドロゲンステロイド11種のみを分析 | 94製品(14.8%)でラベル未表示のステロイドを検出。別に66製品(10.4%)は判定不能 | 約20年前の市場の調査で、現在の汚染率を直接示さない。ステロイド以外は分析していない |
| Martínez-Sanz ら(2017) | 系統的レビュー | 23件の研究を採用(最終検索2017年9月)。汚染率は2製品を超えて分析した研究について報告 | 研究ごとの汚染率は12〜58% | 研究ごとの率の幅であり、1つの有病率ではない |
| Kozhuharov ら(2022) | 系統的レビュー | 50研究、分析された3,132製品(英語・ドイツ語の文献、最終検索2021年6月) | 875製品(27.9%)が表示外の物質を含有。最多はシブトラミンとアナボリックステロイド | 分析手法が研究間で異なる。疑いのある製品を選んで調べた研究が含まれる |
| Lauritzen(2022) | 違反事例の分析 | アンチ・ドーピング・ノルウェーの2003〜2020年の分析的違反192件 | 選手がサプリメントを原因と主張したのは49件(26%)。主張を裏づける証拠があったのは27件(14%) | ノルウェー1機関のデータ。製品の汚染率ではなく、違反の原因についての主張の割合 |
| Al-Saad ら(2026) | 系統的レビュー | 2010年〜2025年3月発表の英語研究(抄録では44研究) | 市販サプリメントの約9〜15%に禁止物質・未承認薬 | 算出方法の記載がない。禁止表にない物質(hordenine、PDE5阻害薬など)も含む |
Geyerらの調査は2000〜2001年に購入された製品が対象で、認証制度が整う前の市場を反映している。Martínez-Sanzらのレビューは、研究ごとの汚染率に幅があることを示したもので、個別の研究に依存する数値である。
Lauritzenの数値は、違反192件を分母にすると、選手がサプリメントを原因と主張したのが49件(26%)、主張を裏づける証拠があったのが27件(14%)である。主張した49件に限ると、裏づけがあったのは約55%にあたる。論文はサプリメントを違反の主要な原因の1つと位置づけており、製品の汚染率とは別の指標として読む必要がある。
禁止表との接点も報告されている。Kozhuharovらのレビューで最も多かった物質は、S6.BのシブトラミンとS1に属するアナボリックステロイドだった。S6.Bには1,3-DMAAやoctodrineも載る。JADAの2026年版変更点資料にも、S4の物質には海外製サプリメント等に含まれる事例があるとの補足がある。これらの研究は、認証のないサプリメント全体の有病率を示すものではなく、調査の対象製品の選び方に左右される点に留意が要る。
認証プログラムは禁止表のどこまでをカバーするのか
アンチドーピング認証は、製品を禁止物質について試験した記録であり、禁止表のすべてを網羅するものではない。認証制度にはInformed Sport・Informed Choice・NSF Certified for Sportなどがあり、検査物質の数や運用は制度ごとに異なる。以下はInformed Sportの公式FAQの記述による。LGC(2026)のInformed Sport公式FAQは、285種以上の禁止物質と汚染の脅威となる物質を分析し、製品の全バッチを市場に出す前に試験するとしている。同じFAQは、どのサプリメント試験プログラムも、スポーツで禁止され得るすべての物質を対象にはできないと明記している。
禁止表と認証の対象物質には構造上の差がある。第1に、禁止表は例示を含む開かれたリストで、認証の対象物質は数が限られる。第2に、禁止表の運用は選手の尿・血液の分析を前提とし、代謝物も含む。サプリメントの分析は親化合物が中心になる(LGC, 2026)。
第3に、認証は試験したロットについての記録であり、別のロットや別の製品には及ばない(LGC, 2026)。第4に、認証は分析した物質が検出限界未満だったという情報で、安全性や効果を保証するものではない。Informed Sportは、カンナビノイドを含む製品を認証の対象にしていない(LGC, 2026)。
認証の種類と対応製品はアンチドーピング認証付きプロテインはどれかで、Informed Choiceの仕組みはInformed Choice(インフォームドチョイス)とはで整理している。
よくある質問
カフェインは禁止物質か
禁止物質ではない。caffeineは2026年版の監視プログラムに掲載されており、禁止表には載っていない。監視プログラムは使用傾向を把握するための枠組みで、載っている物質が将来禁止される保証も、載っていなければ今後も禁止されない保証もない。
市販の風邪薬を飲んだ場合、禁止表に触れることはあるか
成分・用量・投与方法で変わり、一律には答えられない。S6の興奮薬には、感冒・インフルエンザ症状の治療薬に含まれ得る成分があり、尿中濃度の閾値が定められた物質もある。摂取量と尿中濃度の関係には個人差があり、服用量から禁止に当たるかを判断することはできない。個別の薬は、JADAのGlobal DRO、公認スポーツファーマシスト、医師・薬剤師に確認する事項である。
サプリメントに禁止物質が入っていることはあるか
報告はあるが、割合は調査により異なる。2004年の国際調査では非ホルモン系栄養補助食品634製品中94製品(14.8%)でラベル未表示のステロイドが検出され、2022年のレビューでは3,132製品中875製品(27.9%)が表示外の物質を含んでいた。いずれも調査対象の選び方や実施時期が異なり、プロテインパウダーなど特定の製品カテゴリや、日本国内で流通する製品の現状を直接示すものではない。第三者認証も、試験した物質とロットの範囲についての記録で、すべての禁止物質を対象にするものではない(LGC, 2026)。
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参考文献
- Geyer H, Parr MK, Mareck U, Reinhart U, Schrader Y, Schänzer W. (2004). Analysis of Non-Hormonal Nutritional Supplements for Anabolic-Androgenic Steroids - Results of an International Study. International Journal of Sports Medicine, 25(2), 124-129. https://doi.org/10.1055/s-2004-819955
- Martínez-Sanz JM, Sospedra I, Ortiz CM, Baladía E, Gil-Izquierdo A, Ortiz-Moncada R. (2017). Intended or Unintended Doping? A Review of the Presence of Doping Substances in Dietary Supplements Used in Sports. Nutrients, 9(10), 1093. https://doi.org/10.3390/nu9101093
- Kozhuharov VR, Ivanov K, Ivanova S. (2022). Dietary Supplements as Source of Unintentional Doping. BioMed Research International, 2022, 8387271. https://doi.org/10.1155/2022/8387271
- Lauritzen F. (2022). Dietary Supplements as a Major Cause of Anti-doping Rule Violations. Frontiers in Sports and Active Living, 4, 868228. https://doi.org/10.3389/fspor.2022.868228
- Al-Saad N, Aljaal S, Alessa J, Santhosh ME. (2026). Systematic review of undeclared prohibited substances and pharmacological adulterants in dietary supplements: prevalence, detection, and risks in sport. Frontiers in Sports and Active Living, 8, 1740663. https://doi.org/10.3389/fspor.2026.1740663
一次資料(2026年10月15日参照)
- World Anti-Doping Agency. The 2026 Prohibited List(原文PDF)
- 日本アンチ・ドーピング機構(JADA). 2026禁止表国際基準(日本語版)/2026年禁止表国際基準の主な変更点/禁止物質と禁止方法とは?
- LGC. Informed Sport: Frequently asked questions(sport.wetestyoutrust.com)