トリプトファンとは「食品成分表で見る含有量とセロトニンに回る割合」

トリプトファンの定義と、日本食品標準成分表(八訂)に基づく食品ごとの含有量を食品番号つきで整理する。摂取後にキヌレニン経路・セロトニン経路へ配分される比率、プロテイン製品の含有量が文献間でばらつく実情も併せて扱う。

トリプトファン(tryptophan)は9種の必須アミノ酸の一つで、体内で合成できず食事から摂取する必要がある。日本食品標準成分表2020年版(八訂)増補2023年のアミノ酸成分表編によれば、大豆(黄大豆・国産・乾)には可食部100gあたり500mg、鶏むね肉には290mgが含まれる。摂取されたトリプトファンのうち、セロトニン合成に回るのはごく一部で、大部分はキヌレニン経路という別の代謝経路に流れる。

「プロテインにトリプトファンはどれだけ入っているのか」という疑問への答えは、実は一筋縄ではいかない。ホエイプロテインの値は文献によって幅があり、単一の数字で語れないからだ。まずは確定している食品の数値から見ていく。

本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。

トリプトファンとは何か

必須アミノ酸9種のうち、トリプトファンは体内で最も必要量が少ないアミノ酸として知られる。とはいえ「少ない」のは必要量の話であって、体内での役割が小さいわけではない。神経伝達物質セロトニンや、睡眠ホルモンとして知られるメラトニンの原料になる、体内合成不可の窒素源だ。

必須アミノ酸9種を可食部100gあたりの含有量が多い食品で並べると、トリプトファンの少なさが体感しやすい。たとえば鶏むね肉(若どり・皮なし・生)のアミノ酸成分表を見ると、ロイシンが1,800mg、リシンが2,000mg含まれるのに対し、トリプトファンは290mgにとどまる。同じ食品内で比べても、他の必須アミノ酸より少ない量しか含まれていないことがわかる。

構造的には、インドール環を側鎖に持つ芳香族アミノ酸である。この構造ゆえに紫外線を吸収する性質があり、タンパク質の定量法の一つ(280nm吸光度法)にも利用される。Haq et al. (2021, The FASEB Journal)が整理するように、栄養学の文脈ではこの構造がセロトニン・メラトニン・ナイアシンという複数の生理活性物質の出発点になる点が重要である。

どの食品にどれだけ含まれるのか

含有量は食品によって大きく異なる。日本食品標準成分表2020年版(八訂)増補2023年のアミノ酸成分表編から、代表的な食品の値を可食部100gあたりの降順で並べた。

食品可食部100gあたり(mg)たんぱく質1gあたり(mg)
大豆(黄大豆・国産・乾)50015
鶏むね肉(若どり・皮なし・生)29015
牛肉(和牛肉・もも・赤肉・生)270※1
鶏卵(全卵・生)19017
木綿豆腐10016
玄米(水稲穀粒・生)10017
普通牛乳4616
バナナ1014

※1 牛肉のたんぱく質1gあたり値は、文部科学省の食品成分データベースで本記事執筆時点において数値が確認できなかったため空欄とした。100gあたり値のみ確定値として扱う。

食品番号(文部科学省 食品成分データベース): 大豆04023、鶏むね肉11220、牛肉11021、鶏卵12004、木綿豆腐04032、玄米01080、普通牛乳13003、バナナ07107。

大豆が突出して多いのは乾燥重量あたりの数値であるためで、水分を含む豆腐や調理後の食品と単純比較する際は加工状態の違いに注意が必要だ。同じ大豆由来でも、木綿豆腐は水分・凝固剤を含むぶん可食部100gあたりの値は下がる。

プロテイン製品はどうか。日本食品標準成分表にはプロテインパウダー単体の収載品目がなく、この区分は複数の学術文献・海外食品データベースの値に頼らざるを得ない。

区分たんぱく質1gあたり備考
α-ラクトアルブミン(ホエイの一画分)約48mgMarkus et al. (2005, AJCN)
ホエイプロテイン(WPC/WPI・一般)約14〜27mg文献間で幅がある。下記参照
ソイプロテインアイソレート約13mg出典未確認の値。八訂の大豆(乾燥丸大豆)15mg/gが参考になる
カゼイン約12〜14mg八訂「カゼイン」項目は14mg/g

ホエイプロテインの値が出典によって一致しない点は明記しておきたい。乳製品粉末の組成分析で約27mg/g、メーカーの公表アミノ酸プロファイルで約14mg/gという数字がそれぞれ確認できるが、いずれも査読を経た一次文献としての出典は特定できていない。製法(WPC・WPI・WPH)や原料乳の個体差、分析手法の違いが影響していると考えられるが、業界横断で統一された値は存在しない。「プロテイン100gにトリプトファンが何mg」という単一の断定値は、現時点の公開情報からは示せない。

体内でどう使われるのか — セロトニンとキヌレニンの分岐

摂取したトリプトファンの大部分は、セロトニンではなく別の経路で代謝される。Haq et al. (2021, The FASEB Journal)のレビューによれば、摂取されたトリプトファンのおよそ95%がキヌレニン経路に回り、セロトニン(5-HT)経路に回るのは1〜2%程度、残りは腸内細菌による分解に使われるという整理が示されている。この配分比率はレビュー内の記述であり、個々の一次実験の積み上げというより代謝研究全体の概観として理解しておきたい。

キヌレニン経路は免疫調節やナイアシン(ビタミンB3)合成に関わる経路で、セロトニン経路とは役割が異なる。「トリプトファン=セロトニンの材料」というイメージが先行しがちだが、量的にはキヌレニン経路のほうが主要な行き先である。

脳内へのトリプトファン輸送には、血液脳関門にあるLAT1という輸送体が関わる。この輸送体はトリプトファン専用ではなく、分岐鎖アミノ酸や芳香族アミノ酸などの大型中性アミノ酸(LNAA)と輸送枠を奪い合う構造になっている。血中のトリプトファン濃度そのものより、トリプトファンとLNAAの比率(Trp:LNAA比)が脳への取り込みやすさを左右すると考えられている。

この比率に着目したヒト試験がある。Fernstrom et al. (2013, Clinical Nutrition)は、絶食後の健康成人男性6名にα-ラクトアルブミン・グルテン・ゼイン・でんぷんをそれぞれ40g摂取させ、血漿中のトリプトファン比を比較した。α-ラクトアルブミン摂取群では血漿トリプトファンが摂取前の約3倍に上昇し、Trp:LNAA比は約50%上昇した。一方ででんぷんは変化がなく、グルテンは25%低下、ゼインは50%低下したと報告されている。n=6という小規模な試験である点は踏まえておく必要がある。

サプリメントで摂る場合に何を確認すべきか

L-トリプトファンは単体のサプリメントとしても流通しているが、単離アミノ酸を高用量で摂取する行為には歴史的な留意点がある。1988年後半から1989年にかけて、主に米国でL-トリプトファン単体のサプリメント摂取者に好酸球増多筋痛症候群(EMS: eosinophilia-myalgia syndrome)が集団発生した。

原因として有力視されているのは、トリプトファンという物質そのものではない。単一メーカーが製造したL-トリプトファン製剤に含まれていた、製造工程由来の不純物である。発酵に使う菌株の変更に伴い精製工程の一部が省略・削減され、それまでになかった不純物が生成されたことが指摘されている。米国食品医薬品局FDA (2001)の声明は、発症がトリプトファン自体に由来するのか、含まれる不純物に由来するのか、あるいは未知の要因との複合によるのかを判定できないとしている。一方、その後の疫学研究やレビューでは、特定製造ロットの不純物に原因を求める見方が有力とされている。

食品やプロテインからの通常の摂取量と、単離アミノ酸サプリメントの高用量摂取は、体内での挙動が異なりうる。持病がある人・妊娠中の人・他の薬剤を服用中の人がサプリメントとして単体摂取を検討する場合は、自己判断で高用量を摂取せず医師や薬剤師に相談したほうがよい。

トリプトファンと睡眠の関係については、摂取タイミングや他の栄養素との組み合わせを含めてプロテインと睡眠の関係で詳しく扱っている。

よくある質問

トリプトファンが多い食品は何か

日本食品標準成分表(八訂)では、大豆(乾燥)が可食部100gあたり500mgと最も多く、次いで鶏むね肉290mg、牛肉270mg、鶏卵190mgと続く。木綿豆腐や玄米は100mg、普通牛乳は46mg、バナナは10mgである。たんぱく質1gあたりで見ると、玄米や鶏卵がやや高めの値を示す。

プロテインを飲めばトリプトファンは足りるのか

ホエイプロテインのトリプトファン含有量は文献によって約14〜27mg/gタンパク質と幅があり、断定的な数値は示せない。ただし食事とプロテインを組み合わせた通常の食生活であれば、トリプトファンだけが極端に不足する状況は考えにくい。摂取量が足りているかどうかを気にする段階の判断は、食事内容全体を踏まえて栄養士や医師に相談するのが確実だ。

トリプトファンと睡眠は関係があるのか

トリプトファンはセロトニンやメラトニンの原料になるアミノ酸であり、栄養学的なつながりは報告されている。ただし摂取タイミング・併用する栄養素・個人差によって影響の出方は変わるため、詳細はプロテインと睡眠の関係を参照してほしい。

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参考文献

  • Haq S, Grondin JA, Khan WI. (2021). Tryptophan‐derived serotonin‐kynurenine balance in immune activation and intestinal inflammation. The FASEB Journal, 35(10), e21888. https://doi.org/10.1096/fj.202100702R
  • Fernstrom JD, Langham KA, Marcelino LM, Irvine ZLE, Fernstrom MH, Kaye WH. (2013). The ingestion of different dietary proteins by humans induces large changes in the plasma tryptophan ratio, a predictor of brain tryptophan uptake and serotonin synthesis. Clinical Nutrition, 32(6), 1073-1076. https://doi.org/10.1016/j.clnu.2012.11.027
  • Markus CR, Jonkman LM, Lammers JHCM, Deutz NEP, Messer MH, Rigtering N. (2005). Evening intake of α-lactalbumin increases plasma tryptophan availability and improves morning alertness and brain measures of attention. The American Journal of Clinical Nutrition, 81(5), 1026-1033. https://doi.org/10.1093/ajcn/81.5.1026
  • 文部科学省. 日本食品標準成分表2020年版(八訂)増補2023年 アミノ酸成分表編.