ミルクプロテイン(MPC)とは — ホエイ・カゼインとの違いと作り方
ミルクプロテイン(MPC)は脱脂乳を限外ろ過し、カゼインとホエイを約8:2の比率のまま濃縮した原料で、タンパク質42〜85%の製品が流通する。WPC・WPI・ミセラーカゼインとの違い、製法、乳糖量、筋タンパク合成の研究を整理する。
ミルクプロテイン(MPC: milk protein concentrate、乳たんぱく濃縮物)は、脱脂乳を限外ろ過(ultrafiltration)して乳糖と可溶性ミネラルの大部分を除き、カゼインとホエイを牛乳とほぼ同じ約8:2の比率のまま濃縮した乳由来のタンパク質原料である。タンパク質含有率42〜85%の製品が流通し、90%以上のものは MPI(milk protein isolate)と呼ばれる。米国をはじめ多くの国でMPCの統一規格(standard of identity)や含有率の最低・最高規格は定められていない(Patel & Patel, USDEC技術資料)。ホエイが通常はチーズ製造で出る乳清から作られるのに対し、MPCは牛乳そのものから作る。
ミルクプロテイン(MPC)とは何か
MPCは、牛乳に含まれるカゼインとホエイタンパク質を、牛乳と同じ、または近い比率で含む乳タンパク質の濃縮物である。米国乳製品輸出協会 USDEC(2022)の資料では、カゼイン約80%・ホエイ約20%の構成で、WPC(ホエイプロテインコンセントレート)のタンパク質がすべてホエイである点と対比されている。
カゼインは牛乳中のミセル(micelle)に近い形で保たれ、ホエイタンパク質も、製造時の熱負荷が小さければ大部分が未変性のまま残る(Patel & Patel, USDEC技術資料)。この構成から、MPCは「牛乳のタンパク質を丸ごと濃縮したもの」と説明される。
名称には幅がある。英語では含有率に応じて MPC 42、MPC 70、MPC 80、MPC 85 のように数字を付けて呼び、90%以上は MPI とされる。日本語では「ミルクプロテイン」「乳たんぱく」「乳たんぱく質濃縮物」などの語が使われる。
ホエイ・カゼインと何が違うのか
MPCとホエイ系原料(WPC・WPI)の違いは、原料が脱脂乳か乳清かにあり、カゼイン:ホエイ比はMPCが約80:20、WPC・WPIはホエイのみである。ミセラーカゼイン濃縮物(MCC)は脱脂乳の精密ろ過で作り、カゼインの比率が82:18〜95:5に調整される。タンパク質含有率はWPCが34〜89%、MPCが42〜85%と範囲が重なり、乳糖はMPC 42で約46%、MPC 80で約5〜6%、WPIで0.5〜1%と、グレードによって大きく異なる。
下の表は原料の種類を比べたもので、製品の比較ではない。並びはタンパク質含有率の流通範囲の下限の昇順とした。
乳タンパク原料の比較
| 原料 | 原料乳 | 製法 | カゼイン:ホエイ比 | タンパク質含有率 | 乳糖の目安 |
|---|---|---|---|---|---|
| WPC | 乳清(チーズ製造の副産物) | 限外ろ過(必要に応じてダイアフィルトレーション) | ホエイのみ | 34〜89% | WPC 34で48〜55%、WPC 80で4〜10% |
| MPC | 脱脂乳 | 限外ろ過(高タンパク品はダイアフィルトレーションを併用)・噴霧乾燥 | 約80:20 | 42〜85% | MPC 42で約46%、MPC 80で約5〜6% |
| WPI | 乳清 | イオン交換法またはクロスフロー精密ろ過 | ホエイのみ | 90%以上 | 0.5〜1% |
| ミセラーカゼイン濃縮物(MCC) | 脱脂乳 | 精密ろ過 | 82:18〜95:5 | 93〜94%(USDEC技術資料の例示値) | 確認できず |
出典: Patel & Patel(USDEC技術資料)、USDEC(2022)。USDECは米国乳製品の輸出振興団体で、乳糖量などの値は資料によって幅がある。WPC・WPIの製法はWPCとは・WPIとはを参照。MPCの含有率は流通している製品の範囲で、規格値ではない。
WPCの含有率は、上の表ではUSDEC日本語資料の34〜89%を採った。MPCとWPCは含有率の帯が重なるため、同じ「80%」でも組成が異なり、カゼインを含むか、乳糖がどの程度残るかで区別する必要がある。
カゼインの性質(ゲル化、ゆっくりした吸収など)はカゼインとはで扱っている。
MPCはどのように作られるのか
MPCの製造は、脱脂乳を加熱殺菌(例として70〜75℃・10〜20秒)したうえで限外ろ過にかけ、カゼイン・ホエイ・ミセル塩・残った脂肪を保持液に残し、乳糖・可溶性塩・非タンパク態窒素を透過液へ除く工程が中心である。MPC 85のような高タンパク品は、限外ろ過だけでは含有率が上がりきらないため、水を加えて乳糖をさらに洗い出すダイアフィルトレーション(diafiltration)を併用する。最後に蒸発・噴霧乾燥で粉末にする(Patel & Patel, USDEC技術資料)。
原料が脱脂乳なので、脂肪は通常3%未満に抑えられる。乳糖の残り方は含有率に連動し、同じ技術資料ではMPC 42でタンパク質42%・乳糖46%、MPC 80でタンパク質80%・乳糖5〜6%と示されている。参考として、脱脂粉乳(NFDM)はタンパク質34〜36%・乳糖52%である(Patel & Patel, USDEC技術資料)。
膜分離の考え方はWPCの製法と共通するが、出発点が違う。WPCはチーズ製造後の乳清を濃縮し、MPCは牛乳から乳糖を引いてタンパク質を相対的に増やす。カゼインとホエイの比率が牛乳に近いまま保たれるのは、この違いによる。
高タンパク品の課題として、水への溶けにくさが挙げられている。MPCのレビュー論文は、溶解性の低さが利用の障害になっていることを述べている(Meena et al., 2017, J Food Sci Technol)。
筋タンパク合成はホエイと比べてどうか
MPCとWPCを直接比べたヒト試験は少なく、中年男性・安静時・単回摂取の1試験(各群8名)では、筋原線維タンパク質の合成速度に差が見られていない。中年男性16名(45〜60歳)が安静時に20gのタンパク質を摂取した試験で、摂取後0〜90分の筋原線維の分画合成速度(FSR)はMPC側0.057%/h、WPC側0.052%/hで、群間差は有意でなかった(Mitchell et al., 2015, Nutrients)。一方、血漿ロイシンの立ち上がりはホエイ側が大きかった。
Mitchell らの試験は、各群8名、20gのタンパク質を水350mLで単回摂取し、条件は一晩絶食後の安静時に限られる。血漿ロイシンはホエイ側が摂取後45分と75分で高く、曲線下面積(AUC)もホエイ側が大きかった(p=0.012)。総アミノ酸のAUCには差がなく、FSRは90〜210分で両群とも基礎値に戻った。「差なし」は有意差が検出されなかったという結果で、同等性を検定した設計ではない。試験に使われたのはFonterra製のMPC 485とWPC 392である。研究はFonterraとニュージーランド第一次産業省が支える助成プログラムの資金で行われ、著者の1名は同社の従業員(研究設計と原稿の編集に関与)である。
MPCを使っていない試験では、結論が分かれる。若年男性が重い抵抗運動の直後にホエイまたはカゼイン(0.3g/kg除脂肪体重)を摂取した試験では、運動後1〜6時間の筋原線維タンパク質合成に両者の差は見られなかった(Reitelseder et al., 2011, Am J Physiol Endocrinol Metab)。他方、約72歳の高齢男性(各群7名)に20gのWPIまたはミセラーカゼインを摂取させた試験では、筋原線維タンパク質合成が安静時でWPI 0.040%/h・カゼイン0.024%/h、抵抗運動後でWPI 0.059%/h・カゼイン0.035%/hとなり、WPI側が高かった(Burd et al., 2012, Br J Nutr)。
2つの試験は、対象の年齢、運動の有無、タンパク源(ホエイ全般かWPIか、カゼインかミセラーカゼインか)が異なる。合成速度の優劣は研究条件に左右され、MPCの成績をこれらから推し量ることはできない。
消化速度については、健康な成人に同量のロイシンを含むホエイとカゼインを単回摂取させ、ホエイでは血中アミノ酸が急速かつ短時間に上昇し、カゼインでは緩やかに持続したという古典的な報告がある(Boirie et al., 1997, PNAS)。詳細はカゼインとはに記載した。
どんな食品に使われ、表示はどう読むのか
MPCは、含有率によって用途が分かれる。USDEC技術資料では、低タンパクのMPC(42〜50%)がチーズ・ヨーグルト・スープに、高タンパク(70%以上)が飲料・医療食・プロテインバーに使われるとされ、パウダー状のサプリメントやスポーツ栄養製品にも用いられる。食品表示では、「乳たんぱく」は特定原材料「乳」の拡大表記の例に挙げられている。USDEC(2022)の分類では、MPCはミルクタンパク質側の原料である。
消費者庁の「アレルゲンを含む食品に関する表示」では、特定原材料「乳」の代替表記として「ミルク」、拡大表記の例として「乳たんぱく」が示されている。個別表示でこれらの表記を使えば、特定原材料を含む旨の表示(「(一部に乳成分を含む)」など)を省略できる。
原材料名の欄に「乳たんぱく質」と書かれた製品がMPCを使っているかどうかは、この資料からは分からない。ホエイとカゼインの配合比は、原材料名の表記だけでは読み取れない。
よくある質問
原材料表示の「乳たんぱく」はホエイのことか
「乳たんぱく」は、消費者庁の資料で乳アレルゲンの拡大表記の例に挙がっている語である。同じ資料には、この語をホエイ由来・カゼイン由来・MPC由来のいずれかに対応づける記載はない。原料の内訳を知りたい場合は、製品の栄養成分表示や製造者の情報を個別に確認することになる。
乳糖不耐症でもミルクプロテインは摂れるか
乳糖の量は原料のグレードで大きく異なる。原料の典型値で、MPC 42は乳糖約46%、MPC 80は約5〜6%、WPIは0.5〜1%で、原料30gあたりに換算するとそれぞれ約13.8g、約1.5〜1.8g、約0.15〜0.3gになる(Patel & Patel, USDEC技術資料/USDEC, 2022)。製品の乳糖量は、栄養成分表示の炭水化物(糖質)の値が目安になる。症状の出方には個人差があり、乳糖量が少ないことは症状が出ないことを意味しない。乳糖に不安がある場合は、医師や管理栄養士に相談されたい。
ホエイとミルクプロテインはどちらを選べばよいか
乳糖量を抑えたい場合は、乳糖0.5〜1%のWPIや高タンパクグレードのほうが、MPC 42のような低タンパク品より少ない。カゼインを含む構成を求めるなら、約80:20でカゼインを含むMPCが該当し、WPCにはカゼインがない。筋タンパク合成を指標にした直接比較は、中年男性・安静時・20g単回の1試験で差が見られておらず(Mitchell et al., 2015, Nutrients)、条件が違えば結果が変わる可能性がある。
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参考文献
- Mitchell CJ, McGregor RA, D’Souza RF, Thorstensen EB, Markworth JF, Fanning AC, Poppitt SD, Cameron-Smith D. (2015). Consumption of Milk Protein or Whey Protein Results in a Similar Increase in Muscle Protein Synthesis in Middle Aged Men. Nutrients, 7(10), 8685-8699. https://doi.org/10.3390/nu7105420
- Boirie Y, Dangin M, Gachon P, Vasson MP, Maubois JL, Beaufrère B. (1997). Slow and fast dietary proteins differently modulate postprandial protein accretion. Proceedings of the National Academy of Sciences, 94(26), 14930-14935. https://doi.org/10.1073/pnas.94.26.14930
- Reitelseder S, Agergaard J, Doessing S, Helmark IC, Lund P, Kristensen NB, Frystyk J, Flyvbjerg A, Schjerling P, van Hall G, Kjaer M, Holm L. (2011). Whey and casein labeled with L-[1-13C]leucine and muscle protein synthesis: effect of resistance exercise and protein ingestion. American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism, 300(1), E231-E242. https://doi.org/10.1152/ajpendo.00513.2010
- Burd NA, Yang Y, Moore DR, Tang JE, Tarnopolsky MA, Phillips SM. (2012). Greater stimulation of myofibrillar protein synthesis with ingestion of whey protein isolate v. micellar casein at rest and after resistance exercise in elderly men. British Journal of Nutrition, 108(6), 958-962. https://doi.org/10.1017/S0007114511006271
- Meena GS, Singh AK, Panjagari NR, Arora S. (2017). Milk protein concentrates: opportunities and challenges. Journal of Food Science and Technology, 54(10), 3010-3024. https://doi.org/10.1007/s13197-017-2796-0
- Patel H, Patel S. Milk Protein Concentrates: Manufacturing and Applications(Technical Report). U.S. Dairy Export Council / Dairy Research Institute. https://www.thinkusadairy.org/assets/documents/Customer%20Site/C3-Using%20Dairy/C3.7-Resources%20and%20Insights/03-Application%20and%20Technical%20Materials/Milk_Protein_Concentrates_Technical_Report.pdf
- 米国乳製品輸出協会(USDEC). 米国の乳由来たんぱく質製品. 2022. https://thinkusadairy.org/Documents/Microsites/Japanese/jp-2022%20US-Dairy-Proteins.pdf
- 消費者庁. 別添 アレルゲンを含む食品に関する表示(食品表示基準 Q&A 別添). https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_261001_07.pdf