HACCPとは「7原則12手順と、義務化されたのが認証取得ではない理由」
HACCPは危害要因を工程ごとに分析し重要管理点に絞って管理する手法である。2021年6月1日に義務化されたのは衛生管理計画の作成・記録・検証の実施で、第三者認証の取得は含まれない。7原則12手順の対応関係を整理する。
HACCPは、製造工程のすべてを均等に見張るのではなく、危害要因分析(Hazard Analysis)によって特に重要な工程を絞り込み、そこを重点的に管理する衛生管理の手法である。2021年6月1日に食品衛生法改正で全食品等事業者に義務化されたのは、衛生管理計画の作成・記録の保存・定期的な検証といった「実施」であり、第三者機関による審査・認証の取得はこの義務に含まれない。工程の管理手順は7原則12手順として整理されており、このうち原則として数えられるのは12手順中の7つだけである。
HACCPとは何か — 全工程を均等に見張らない仕組み
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中から、食中毒菌汚染や異物混入などの危害要因が発生しやすい工程を洗い出し、その中でも特に重要管理点(CCP: Critical Control Point)と呼ばれる工程に管理を集中させる手法である。全工程を一律の密度で検査するのではなく、リスクの高い工程に管理資源を配分する点が特徴だ。
この考え方の基礎は、コーデックス委員会(Codex Alimentarius Commission)が示す「食品衛生の一般原則」にある。同委員会は2020年9月の総会でこの一般原則を改訂し、適正衛生規範(GHP)を扱うPart 1とHACCPを扱うPart 2の2部構成に再編した(コーデックス委員会(2020)による改訂)。日本の厚生労働省が定める制度も、このコーデックスの7原則を土台としている。
HACCPは審査機関が発行する認証マークではなく、あくまで手法・考え方である。この点は誤解されやすく、「HACCP認証」という表現が流通の現場で使われることがあるが、国内向け食品に限れば国が発行する第三者認証としての「HACCP認証」制度は存在しない。GMP・ISO22000・FSSC22000など、HACCPを内包しながら第三者審査を組み込む規格との違いはGMPとはで整理している。
7原則12手順は何をする手順なのか
HACCP導入の手順は7原則12手順として体系化されている。手順1〜5はHACCPプランを作るための準備段階で、原則そのものとして数えられるのは手順6〜12(原則1〜7)の7つに限られる。この区別を曖昧にし、12手順をそのまま「12の原則」であるかのように書く解説は少なくない。
準備段階の手順1〜5では、まずチームを編成し、製品説明書と製造工程一覧図を作成したうえで現場と突き合わせる。ここまでは危害要因の分析には入らない。手順6以降でようやく、危害要因の洗い出し・CCPの決定・管理基準の設定・モニタリング・改善措置・検証・記録という7段階のプラン本体に進む。
7原則12手順の対応表
| 手順 | 原則 | 内容 |
|---|---|---|
| 手順1 | — | HACCPチームの編成 |
| 手順2 | — | 製品説明書の作成 |
| 手順3 | — | 意図する用途及び対象となる消費者の確認 |
| 手順4 | — | 製造工程一覧図の作成 |
| 手順5 | — | 製造工程一覧図の現場確認 |
| 手順6 | 原則1 | 危害要因分析の実施 |
| 手順7 | 原則2 | 重要管理点(CCP)の決定 |
| 手順8 | 原則3 | 管理基準(CL)の設定 |
| 手順9 | 原則4 | モニタリング方法の設定 |
| 手順10 | 原則5 | 改善措置の設定 |
| 手順11 | 原則6 | 検証方法の設定 |
| 手順12 | 原則7 | 記録と保存方法の設定 |
出典: 日本食品衛生協会(2026)「HACCP導入のための7原則12手順」
コーデックスの英語表記(Hazard Analysis, CCP determination, Critical Limits, Monitoring, Corrective Actions, Verification, Documentation and Record Keeping)は、この手順6〜12と一対一で対応している。準備段階を含む12手順全体を実施して初めて、実際に運用できるHACCPプランが完成する。
義務化されたのは何か — 認証取得は含まれない
令和3年(2021年)6月1日、食品衛生法改正に基づく「HACCPに沿った衛生管理」が全面施行された。厚生労働省が営業者に求めているのは、衛生管理計画を作成し従業員に周知徹底すること、清掃・洗浄・消毒や食品の取扱いについて具体的な方法を定めた手順書を作成すること、実施状況を記録し保存すること、そして定期的に検証し見直すことの4つである。この4項目に第三者認証の取得は含まれておらず、制度の説明にも「認証」「認定」という語は使われていない。
義務化された「HACCPに沿った衛生管理」は、対象事業者の規模によって2つの区分に分かれる。と畜場や大規模事業者などは「HACCPに基づく衛生管理」として、その事業者の原材料・工程に応じた衛生管理計画をコーデックスの7原則に沿って個別に作成する必要がある。一方、食品を扱う従業員が50人未満の小規模事業者などは「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」として、業界団体が作成し厚生労働省が確認した手引書の内容を実施することで対応できる。
出典: 厚生労働省(2026)「HACCPに沿った衛生管理の制度化」
つまり義務の中身は「計画を作り、実施し、記録し、見直す」というプロセスの実行であって、外部審査に合格することではない。国内向け販売のみを行う食品事業者に対する第三者認証としての「HACCP認証」制度は存在しない。ただし輸出食品については別の枠組みがあり、対米・対EU輸出を行う水産食品加工施設に限っては厚生労働省・水産庁による公的な認定制度が設けられている。この認定制度が乳原料由来の粉末食品にも適用されるかどうかは、公表資料からは確認できない。
「HACCPに沿った衛生管理」の義務化と、GMP・ISO22000・FSSC22000など他の規格・認証との積み上げ構造の違いはFSSC22000とはで扱っている。
粉末プロテインの製造では何が重要管理点になりうるのか
食品の危害要因は生物的・化学的・物理的の3分類に整理される。粉末・乾燥食品は水分活性が低いため保存性が高いと見なされがちだが、サルモネラ属菌などの病原微生物は低水分の環境でも生残しうることが指摘されている。乾燥しているから安全、という単純な理解は成り立たない。
出典: 一般財団法人食品産業センター「HACCP関連情報データベース」(2026年7月参照)
粉末プロテインを含む個別ブランドの実際のCCP設定は非公開情報であり、本記事では特定メーカーの工程を推測しない。代わりに、乳製品を対象にした学術レビューと乳業界の公的手引書から、粉末食品・乳製品粉末で一般的にCCPとなりうる工程を整理する。ヨーグルト製造工程のHACCP実装を扱ったレビューは、生乳の受入・殺菌(熱処理)・充填包装・保管の4段階を、汚染が起こりやすくCCPの対象となる工程として挙げている(Aslani et al., 2024, Journal of Dairy Research)。これは実際の製造データを取った試験ではなく既存文献を整理したレビューであり、対象は乳・ヨーグルト製造工程であって粉末プロテインそのものではない。
粉体原料特有の課題として、サンプリング検査の限界も指摘されている。食品微生物学の専門家による解説記事では、2026年春に米国で発生した乾燥乳粉末由来のサルモネラリコール事例が紹介されており、低水分の粉末原料は少量の汚染でも複数の製品カテゴリへ横展開されやすくリコール範囲が拡大しやすいこと、使用前検査で陰性だったロットからも予防的リコールが行われた例があることが解説されている。この記事は査読誌の論文ではなく専門家個人によるブログ解説であり、査読論文と同格の一次データとしては扱わない。
粉末食品一般で重要管理点になりやすいのは、原料受入時の検査、殺菌・加熱工程、金属検出を含む充填・密封工程、そしてアレルゲンの意図しない交差接触を防ぐ工程管理である。ただし、HACCPに沿った衛生管理を実施していること自体は、個々の製品が無害であることの証明にはならない。手法の実施と個別ロットの安全性は別の話であり、実施の有無・記録の精度は事業者ごとに差がある。
よくある質問
「HACCP認証」を取っている製品のほうが安全か
国内向け食品に対して国が発行する第三者認証としての「HACCP認証」制度は存在しない。義務化されたのは衛生管理の実施(計画作成・記録・検証)であり、民間団体やコンサルティング会社が「HACCP認証」を謳うサービスを提供している場合、それは任意の民間スキームである。実施の有無と製品個別の安全性は別の観点として区別する必要がある。
HACCPは小さな工場でも義務なのか
食品を扱う従業員が50人未満の小規模事業者等は、業界団体が作成し厚生労働省が確認した手引書に沿って対応する「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象になる。大規模事業者が求められる「HACCPに基づく衛生管理」(事業者ごとの個別計画作成)とは実施方法が異なるが、義務化の対象から外れるわけではない。
HACCPとGMPはどちらが厳しいのか
管理する対象の性質が異なるため単純に比較できない。HACCPは製造工程内の危害要因管理に絞った手法であるのに対し、GMPは原材料受け入れから出荷までの製造管理・品質管理全体を対象とする仕組みで、法的な義務化の範囲や第三者認証の位置づけも異なる。両者の違いの詳細はGMPとはを参照してほしい。
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参考文献
- Aslani R, Mazaheri Y, Jafari M, Sadighara P, Molaee-aghaee E, Ozcakmak S, Reshadat Z (2024). “Implementation of hazard analysis and critical control point (HACCP) in yogurt production.” Journal of Dairy Research, 91(1), 125-135. DOI: 10.1017/S0022029924000232
- 厚生労働省「HACCPに沿った衛生管理の制度化」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/01_00019.html(2026年7月参照)
- 厚生労働省「HACCP関連制度 対米、対EU等輸出食品の認定制度」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/other/ninteiseido.html(2026年7月参照)
- 公益社団法人日本食品衛生協会「HACCP導入のための7原則12手順」https://www.n-shokuei.jp/eisei/haccp_sec05.html(2026年7月参照)
- 一般財団法人食品産業センター「HACCP関連情報データベース」https://haccp.shokusan.or.jp/haccp/information/(2026年7月参照)
- 木村凡「米国の乾燥乳粉末関連サルモネラリコールから考える原料管理の基本」食品微生物学(検査と制御方法)https://foodmicrob.com/dry-milk-powder-salmonella-recall-raw-material-risk/(2026年7月参照)