eGFRとは — タンパク質摂取と腎機能の指標を正しく読む
eGFR(推算糸球体濾過量)は血清クレアチニン値・年齢・性別から腎機能を推算する指標である。日本版eGFR式とCKD-EPI式の計算式・基準値の違いを整理し、高タンパク食による糸球体過濾過とCKD患者のeGFR低下を明確に区別して解説する
本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。
eGFR(推算糸球体濾過量、estimated Glomerular Filtration Rate)は、血清クレアチニン値・年齢・性別から腎臓のろ過機能を推算する指標である。日本人向けの計算式はMatsuo et al.(2009, American Journal of Kidney Diseases)が開発した3変数式で、GFR(mL/min/1.73m²)= 194 × 血清Cr^-1.094 × 年齢^-0.287(女性はさらに×0.739)と定義される。健康な人が高タンパク食を摂ると、糸球体過濾過(hyperfiltration)という適応反応でeGFRが一時的に上昇することがあるが、これは腎障害ではない。慢性腎臓病(CKD)患者のeGFR低下とは区別して読む必要がある。
eGFR(推算糸球体濾過量)とは何か — 計算式と基準値
日本の健診結果に表示されるeGFRは、Matsuo et al.(2009, American Journal of Kidney Diseases, 53巻6号)が日本人413名の開発コホートと350名の検証コホートから導いた式で算出される。この式は国際的に使われるIDMS-MDRD式より日本人集団への適合性が高いことが示された。日本腎臓学会の「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」では、eGFR 60 mL/min/1.73m²未満、または蛋白尿など腎障害を示す所見が3ヶ月以上持続する状態をCKDと定義している。
この基準値はGFR区分(G1〜G5)として整理され、健診結果を読む際の目安になる。ただし区分だけで腎機能の重症度を断定できるわけではなく、蛋白尿の有無など他の所見と合わせて医師が総合判断する。数値の意味を理解した上で、異常値が出た場合は自己判断せず医療機関に相談するのが基本的な流れである。
| 区分 | eGFR(mL/min/1.73m²) | 腎機能の状態 |
|---|---|---|
| G1 | ≥90 | 正常または高値 |
| G2 | 60〜89 | 正常または軽度低下 |
| G3a | 45〜59 | 軽度〜中等度低下 |
| G3b | 30〜44 | 中等度〜高度低下 |
| G4 | 15〜29 | 高度低下 |
| G5 | <15 | 末期腎不全 |
出典: 日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」のGFR区分(KDIGO基準と共通の枠組み)。
海外、特に米国ではInker et al.(2021, New England Journal of Medicine, 385巻19号)が開発したCKD-EPI 2021式(race-free式)が主流になりつつある。この式は人種係数を除いた血清クレアチニン単独式と、クレアチニン+シスタチンC併用式の2種類で構成され、クレアチニン式の開発コホートは10研究8,254名、併用式は13研究5,352名に基づく。併用式の方が実測GFRとの誤差が小さく人種間差も縮小したと報告されているが、日本の臨床現場ではMatsuo式(JSN eGFR)が標準として使われ続けている点は誤解しないよう注意したい。
高タンパク食でeGFRはどう変わるのか — 糸球体過濾過
高タンパク食を摂取すると、腎臓の輸入細動脈が拡張し糸球体内圧が上昇する。この現象は糸球体過濾過(glomerular hyperfiltration)と呼ばれ、Ko et al.(2020, Journal of the American Society of Nephrology, 31巻8号)のレビューで機序が整理されている。健康な腎臓ではこの反応は一時的な適応であり、腎障害そのものを意味しない。
一方でJuraschek et al.(2013, American Journal of Kidney Diseases, 61巻4号、OmniHeart試験、n=164)では、エネルギー比25%の高タンパク食群でシスタチンCベースeGFRが+3.81 mL/min/1.73m²上昇した(P<0.001)のに対し、血清クレアチニンの上昇はわずか+0.02 mg/dL(P=0.04)にとどまった。この結果は、筋肉由来のクレアチニン産生量の変化がクレアチニンベースeGFRの解釈を複雑にすることを示している。
健常者を対象にした28件のRCTを統合したDevries et al.(2018, The Journal of Nutrition, 148巻11号、n=1,358)のメタ分析では、高タンパク群(1.81±0.60 g/kg/日)と通常群(0.93±0.51 g/kg/日)でGFR変化量に有意差は見られなかった(SMD=0.11, 95%CI -0.05〜0.27, P=0.16)。健康な人が高タンパク食を続けても腎機能が悪化するという一貫した根拠は、現時点のエビデンスでは示されていない。
健康な人とCKD患者ではなぜ結論が違うのか
腎機能が正常な人と既にCKDを抱える人とでは、同じ「高タンパク食」でも意味が変わってくる。腎機能が低下している女性では、タンパク質10g/日の増加ごとにeGFRが-1.69 mL/min/1.73m²低下するという関連が報告されており、これはKo et al.(2020)が引用するNurses’ Health Study(女性看護師1,624名、42〜68歳、軽度腎機能低下群)の数値である。孫引きのデータであることに留意しつつ、既存の腎機能低下がある集団では高タンパク食が進行リスクを高める可能性がある、という文脈で理解すべき数値だ。
この非対称性こそが、eGFRという指標を読むうえで最も混同されやすい点である。「健康な人でeGFRが上がった」と「CKD患者でeGFRが下がった」は、どちらも高タンパク食が関与しうる現象でありながら、リスクの向きがまったく逆になる。KDIGO 2024のガイドラインは、CKD G3〜G5(GFR 60 mL/min未満)の成人に対して0.8 g/kg/日のタンパク質摂取を推奨しており、健常者向けの摂取量の目安とは別枠で考える必要がある。CKD患者のタンパク質摂取量の具体的な調整幅は、ステージ別に個別記事で整理している。
トレーニーのeGFRはなぜ低く出るのか — クレアチニンと筋肉量
クレアチニンは筋肉内のクレアチンリン酸が分解されて生じる老廃物であり、その血中濃度は腎機能だけでなく筋肉量にも比例する。したがって、筋肉量が多い人ほど血清クレアチニン値が高くなりやすく、クレアチニンベースの計算式ではeGFRが実際の腎機能より低く算出される可能性がある。
この関係を示す一次データとして、Groothof et al.(2022, Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle, 13巻4号、n=8,076)の縦断コホート研究がある。この研究は一般住民コホート(PREVEND研究、年齢28〜75歳)の縦断解析であり、その中の60歳以上・低筋肉量サブグループの解析ではクレアチニンベースeGFRとシスタチンCベースeGFRの不一致分類率が18.5%(女性15.2%)、70歳男性の低筋肉量群では両者の差が24.7 mL/min/1.73m²に達したと報告されている。この数値は「低筋肉量→クレアチニンベースeGFRが相対的に高く出る」方向の結果であり、筋肉量が多いトレーニーで起こる「相対的に低く出る」現象とは逆方向である点に注意が必要だ。ただし、クレアチニン産生量が筋肉量に比例するという機序自体は両方向に共通する。
筋肉量が多い集団での直接的な検証としては、Ashouri et al.(2024, American Journal of Men’s Health, 18巻5号)がテストステロン使用歴のある男性エリートアスリート(n=227、年齢中央値41歳、BMI中央値30.64)を対象に、クレアチニンとシスタチンCの相関を調べている。正常体重群では相関がほぼ消失し(R²=0.0001)、過体重・肥満群でのみ相関が出現した(R²=0.27〜0.29)。高筋肉量の集団ではクレアチニン単独指標の信頼性が低下しうることを示唆する結果だが、対象がテストステロン使用者を含むアスリート集団である点、R²は決定係数であって「eGFRが何mL/min過小評価される」という直接の数値ではない点は割り引いて読む必要がある。トレーニングを継続していて血清クレアチニン値が高めに出た場合、それが実際の腎機能低下なのか筋肉量による見かけ上の数値なのかは、シスタチンCベースの評価や蛋白尿検査など他の指標と合わせて医師が判断する領域になる。
eGFRが気になるときどう判断すればよいか
健診結果でeGFRの数値を見たとき、まず確認すべきはeGFRが60以上(G1・G2)か、60未満(G3a以下)かである。G1・G2の範囲であれば、高タンパク食による一時的な変動は糸球体過濾過という正常な適応反応である可能性が高い。eGFR 60未満(G3a・G3b・G4・G5)の値が3ヶ月以上続く場合や、蛋白尿など他の異常所見を併せ持つ場合は、自己判断でプロテインの量を増減させず、腎臓内科を受診して評価を受けることが望ましい。
筋肉量が多い人は、血清クレアチニン値だけを見て「腎機能が悪い」と早合点しないことも重要になる。健診の再検査や人間ドックでシスタチンCベースの評価を併用してもらうと、クレアチニン単独では見えにくい実際の腎機能像に近づける。Devries et al.(2018)が示すように健常者の高タンパク食そのものは腎機能悪化の根拠に乏しく、eGFRという1つの指標だけで健康状態を確定させず、経時的な変化と他の検査項目を合わせて見る姿勢が基本になる。
よくある質問
Q. プロテインを飲んだらeGFRが上がったけど大丈夫か。 A. 健康な腎機能を持つ人が高タンパク食を摂ると、糸球体過濾過という適応反応でeGFRが一時的に上昇することがある。Devries et al.(2018)のメタ分析では健常者の高タンパク摂取でGFR変化量に有意差は見られておらず、この変動は直ちに腎障害を意味するものではない。ただし持続的な変化が気になる場合は健診結果を医師に見せて相談するとよい。
Q. eGFRが低いのにプロテインを飲み続けてもよいか。 A. G3a以下(eGFR 60未満)の状態が3ヶ月以上続く場合は、CKDの診断基準に該当しうる状態であり、自己判断でタンパク質摂取量を決めるべきではない。KDIGO 2024はCKD G3〜G5の成人に対し0.8 g/kg/日という目安を示しているが、具体的な調整は腎臓内科医・管理栄養士の指導のもとで行う必要がある。
Q. 筋トレをしている人はeGFRの数値をどう読めばよいか。 A. 筋肉量が多いとクレアチニン産生量が増え、クレアチニンベースのeGFRが実際の腎機能より低く算出される可能性が指摘されている。Ashouri et al.(2024)はアスリート集団でクレアチニンとシスタチンCの相関が体格によって変動することを示したが、これは限定的な集団での知見であり、数値の解釈に迷う場合はシスタチンCベースの評価も含めて医師に相談するのが望ましい。
関連記事
- 高タンパク食と腎機能の関係を整理した記事(/guides/protein-kidney-health)
- CKDステージ別のタンパク質摂取量の目安(/guides/ckd-stage-protein-intake-guide)
- 健康診断のクレアチニン・BUN・尿酸値の読み方(/guides/protein-health-checkup)
- クレアチンとクレアチニン値・eGFRの関係(/guides/creatine-kidney-safety)
参考文献
- Matsuo, S. et al. (2009). Revised Equations for Estimated GFR From Serum Creatinine in Japan. American Journal of Kidney Diseases, 53(6), 982-992. (https://doi.org/10.1053/j.ajkd.2008.12.034)
- Inker, L. A. et al. (2021). New Creatinine- and Cystatin C–Based Equations to Estimate GFR without Race. New England Journal of Medicine, 385(19), 1737-1749. (https://doi.org/10.1056/NEJMoa2102953)
- Groothof, D. et al. (2022). Muscle mass and estimates of renal function: a longitudinal cohort study. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle, 13(4), 2031-2043. (https://doi.org/10.1002/jcsm.12969)
- Ashouri, R. et al. (2024). Creatinine and Cystatin C: A Measure of Renal Function in Men With Testosterone-Induced Muscle Hypertrophy. American Journal of Men’s Health, 18(5). (https://doi.org/10.1177/15579883241286654)
- Juraschek, S. P. et al. (2013). Effect of a High-Protein Diet on Kidney Function in Healthy Adults. American Journal of Kidney Diseases, 61(4), 547-554. (https://doi.org/10.1053/j.ajkd.2012.10.017)
- Ko, G. J. et al. (2020). The Effects of High-Protein Diets on Kidney Health and Longevity. Journal of the American Society of Nephrology, 31(8), 1667-1679. (https://doi.org/10.1681/ASN.2020010028)
- Devries, M. C. et al. (2018). ‘Changes in Kidney Function Do Not Differ between Healthy Adults Consuming Higher- Compared with Lower- or Normal-Protein Diets: A Systematic Review and Meta-Analysis. The Journal of Nutrition, 148(11), 1760-1775. (https://doi.org/10.1093/jn/nxy197)
- 日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」
- KDIGO (2024). KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. Kidney International Supplements.