生物価(BV)とは — タンパク質品質を測る古典的指標

生物価(Biological Value, BV)は摂取タンパク質のうち体内で実際に利用された窒素の割合を測る古典的なタンパク質品質指標。1924年にMitchellらが確立し、ホエイ104・全卵94・大豆74などの値が報告される。PDCAAS・DIAASに至る品質指標の歴史と算出式を整理する。

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生物価(BV: Biological Value)は、摂取したタンパク質のうち体内で実際に利用された窒素の割合を窒素出納法で測定する古典的なタンパク質品質指標である。1924年にHans H. Mitchellが確立した測定法(Mitchell HH, 1924, Journal of Biological Chemistry)に基づき、Hoffman & Falvo(2004)のレビューが整理した代表値として、ホエイプロテイン104・全卵94・牛肉80・カゼイン77・大豆プロテイン74・小麦グルテン64などが報告されている。現在の国際的なタンパク質品質評価指標としては、糞便消化率を加味したPDCAAS(1991年、FAO/WHO採択)、および回腸真消化率を採用したDIAAS(2013年、FAO推奨)が後続している。

生物価(BV)とは何か

生物価(Biological Value, BV)は、食品から吸収された窒素のうち体内に保留された割合を示す指標であり、算出式は「BV = (吸収N − 尿中損失N − 体表N損失)÷ 吸収N × 100」で表される。値が100に近いほど吸収されたタンパク質のほぼ全量が体内で利用されたことを意味し、ホエイプロテインでは104という値が報告されている(Hoffman & Falvo, 2004, Journal of Sports Science and Medicine)。値が100を超えることは計算上起こりうる(窒素保留の測定誤差・条件の違いが関与する)。

BVという概念は、ドイツの生理学者Karl Thomas(1909)が「食事タンパク質の保留比率」を理論的に定式化したことに起源をもつ。その後、米国のHans H. Mitchellが1924年にラット試験による定量的な測定方法として標準化し、Thomas-Mitchell法とも呼ばれる体系が確立された(Mitchell HH, 1924, Journal of Biological Chemistry, 58:873-903)。

BVの算出に必要な情報は4つである。摂取窒素量(N摂取)、尿中に排泄された窒素量(尿N)、糞便に排泄された窒素量(糞N)、および食物を与えない状態での内因性窒素損失(尿・糞・体表の各ベースライン)である。吸収Nは「N摂取 − 糞N(内因性糞N補正後)」、保留Nは「吸収N − 尿N(内因性尿N補正後)」として算出される。

BVは「消化されて吸収された後の利用効率」を測るため、消化率そのものは評価しない点が重要な特徴である。消化率が低い食品では、BVが高くても実際に体内で利用されるタンパク質量は限られる。この制約が後のPDCAAS・DIAASの設計思想につながっている。

生物価はどう測定されるのか

Mitchell(1924)のBV値はラット試験を基礎として確立された。ヒト試験でBVを測定した場合は異なる数値レンジになることが知られており、たとえば全卵のラット試験BVは94前後、ホエイは96前後との報告がある。「ホエイ104・全卵94」という数値はHoffman & Falvo(2004)が複数の一次文献から体系的に整理したレビュー値であり、原典となるMitchell(1924)の直接データではなく参照値として理解する必要がある。

測定の実際の手順は次の通りである。試験動物(またはヒト)に一定量のタンパク質を含む食事を一定期間与え、摂取した窒素量・尿中排泄窒素量・糞便排泄窒素量を定量する。別途、タンパク質を与えない期間(窒素フリー食)での内因性窒素損失(代謝的尿窒素・代謝的糞窒素・皮膚・汗からの体表窒素)をベースラインとして測定し、補正に用いる。

ヒトとラットでBV値が異なる背景には、消化酵素の活性・腸管の形態・代謝回転速度などの種差が存在する。このため、Mitchell 1924のラット試験由来のBV値(ホエイ104・全卵100等の系統)と、ヒト試験に基づく文献値(全卵94・ホエイ96等の系統)は、数値の意味する出典が異なる別の測定系統として理解する必要がある。

さらに、BVは測定時の食事組成・タンパク質摂取量・対象個体の栄養状態によっても変動する。タンパク質摂取量が少ない場合は保留率が高く見かけのBVが上がる「補充効果(repletion effect)」が生じうる。こうした変動要因により、同一食品でも文献によってBV値が異なる場合があることを理解しておく必要がある。

主要食品の生物価はいくつとされているか

Hoffman & Falvo(2004)が複数の一次文献から整理した代表的なBV値は、ホエイプロテイン104・全卵94・牛乳91・牛肉80・カゼイン77・大豆プロテイン74・小麦グルテン64である。これらはラット試験を基礎とした測定値であり、ヒト試験では別の数値系統が存在する。比較指標としての目安として広く引用されている値であるが、測定条件・出典によって異なる場合がある旨を念頭に置く必要がある。

以下の表は、主要食品のBV・PDCAAS・DIAASを1つの表で整理したものである。BV降順で並べた。各指標が異なる測定方法・算出方式に基づくことから、3列の数値を単純に大小比較することはできないが、指標ごとの食品間相対関係の違いを読み取ることができる(2026年6月時点、各出典を統合)。

食品生物価(BV)PDCAAS(0〜1.00)DIAAS(%)
ホエイプロテイン(WPI)1041.00(天井)109
全卵941.00(天井)101
牛肉800.9297〜99
カゼイン771.00(天井)117
大豆タンパク(SPI)741.00(天井)84〜91
小麦タンパク(グルテン)640.25(精製グルテン)〜0.45(全粒粉)40〜48

BV出典: Hoffman & Falvo (2004)(ただし全卵=94はFAO/WHO 1971の実測値系統を採用。Hoffman 2004 Table 1自体は全卵=100を相対評価基準として表記)。PDCAAS出典: FAO/WHO (1991)。DIAAS出典: WPI 109 はMathai et al. (2017)、カゼイン 117・全卵 101 はHerreman et al. (2020)(0.5-3歳パターン)、牛肉・大豆・小麦の幅はMathai 2017・Herreman 2020 を統合。本表のBV値はラット試験を基礎としており、ヒト試験では別の数値系統が存在する。PDCAAS 1.00はスコアが上限(1.0)に切り詰められた値であり、実際の計算値は1.0を超える場合がある。

この表を読む際に注目すべき点が2つある。第一に、カゼインのBVはホエイより低い(77 vs 104)にもかかわらず、DIAASではカゼイン117・WPI 109とカゼインの方が高い値となる。これは指標が「吸収後の利用率」(BV)と「回腸末端でのアミノ酸消化率×アミノ酸充足度」(DIAAS)という異なる側面を測定しているためである。カゼインは消化吸収速度が遅く、ホエイのような速い吸収による窒素保留の利点(BV)では不利だが、回腸末端で最終的に消化されるアミノ酸の量と質(DIAAS)は高水準にある。第二に、PDCAASではホエイ・全卵・カゼイン・大豆SPIがいずれも1.00に収束し、これらの間の品質差がわからない。DIAASでは84〜117の範囲に分化しており、高品質タンパク質間の差別化が可能になる。なお本表はBV降順でソートしているが、DIAAS降順で見ればカゼイン117が最高値となり、ソート基準によって順位が変わる点も指標体系の特性として理解しておく必要がある。

「全卵94・ホエイ104」という数値の関係について補足する。BVの数値系統には「全卵を基準100として相対化する慣例」があり、Hoffman 2004のTable 1ではこの慣例に基づき全卵を100と表記している。一方、FAO/WHO 1971の報告(実測値系統)では全卵BVは94という値が示されている。本表では実測値系統(全卵94)を採用したが、ホエイ104という値はいずれの系統においてもホエイが全卵より高いBV値を示すことを意味する。ただし「ホエイが卵より高品質なタンパク質源」という単純化は適切でなく、BVは複数あるタンパク質品質指標の1つに過ぎない点に留意する。

生物価とPDCAAS・DIAASはどう違うのか

タンパク質品質評価指標は1909年のThomas理論を起点に段階的に進化してきた。1924年にMitchellがBVを定量化(Journal of Biological Chemistry)、1989年のFAO/WHO専門家会議でPDCAASが国際標準として採択され1991年に報告書として公表(FAO/WHO, 1991, FAO Food and Nutrition Paper 51)、2013年にFAOがDIAASへの移行を推奨した(FAO Expert Consultation, 2013, FAO Food and Nutrition Paper 92)。この1924→1989/91→2013という年表は、各指標が前の指標の限界を補う形で登場してきた歴史を示している。

BVの限界: BVは「吸収された後の利用率」を測るが、消化率そのものを評価しない。たとえば消化率が60%の食品と90%の食品でBVが同じ值であっても、実際に体内に届くタンパク質量は大きく異なる。また測定にラット試験を用いることが多く、ヒトへの外挿に限界がある。

PDCAASの特徴と限界: PDCAASはアミノ酸スコアに糞便消化率を乗じることで、消化吸収の程度を評価に組み込んだ。しかしスコアを1.0で切り捨てる仕様のため、ホエイ・卵・カゼイン・大豆SPIのような高品質タンパク質間の差を数値上で区別できない(Schaafsma, 2012, British Journal of Nutrition)。また糞便消化率は大腸での腸内細菌によるアミノ酸代謝を消化吸収と誤計上するため、実際の小腸吸収量を過大評価する問題もある(Boye et al., 2012, British Journal of Nutrition)。

DIAASの改良点: DIAASは消化率の測定箇所を糞便から回腸末端(小腸末端)に変更し、上限切り捨てを廃止した。これにより、カゼイン117・WPI 109・全卵101のように高品質タンパク質間の差が数値に反映される。FAO 2013の推奨採択から10年が経過し、400食品以上の真回腸アミノ酸消化率データが整備されているが、規制・食品ラベルへの採用は2024年時点でも限定的である(Moughan & Lim, 2024, Frontiers in Nutrition)。採用が進まない背景には、真回腸消化率の測定にコストの高い動物試験や同位体トレーサー法が必要なこと、既存のPDCAAS データとの互換性の問題が指摘されている。

各指標の設計上の相違は以下の表に整理できる。

比較軸生物価(BV)PDCAASDIAAS
確立・採択年1924年(Mitchell)1991年(FAO/WHO)2013年(FAO推奨)
測定対象吸収後の窒素保留率アミノ酸スコア × 糞便消化率各EAAの回腸末端消化率
消化率の評価含まない糞便消化率(全腸管)を使用真回腸消化率(小腸末端)を使用
スコア上限なし(100超えあり)1.0で切り捨て切り捨てなし
高品質間の差別化可能(ただし測定誤差大)不可(全て1.0に収束)可能
主な測定動物ラット(一次データ)ラット・成長豚成長豚・同位体トレーサー
現在の位置付け教育・歴史的参照規制・製品ラベルで継続使用国際的推奨(規制採用は限定的)

出典: Mitchell (1924); FAO/WHO (1991); FAO (2013); Moughan & Lim (2024)

BVは現代の国際的な主要指標からは置き換えられているが、タンパク質品質研究の歴史的出発点として、また直感的な品質の目安として教育文脈で今も参照され続けている。タンパク質品質の現代的な評価にはDIAASが参照されるが、比較文献やサプリメント関連情報でBV値が引用される機会はまだ多いため、その算出原理と限界を理解しておくことは有用である。

よくある質問

Q: ホエイの生物価104は卵より高い数値を意味するのか

ホエイの生物価104・全卵の生物価94という組み合わせを見ると、数値上ホエイが卵を上回る。しかし2点の注意が必要である。第一に、BV値はHoffman & Falvo(2004)がレビューとして複数の一次文献から整理した参照値であり、ラット試験を基礎とするため、ヒトでの測定値とは異なる場合がある。第二に、BVは「吸収後の窒素利用率」という1側面を測るに過ぎず、消化率・アミノ酸組成・生体利用率を総合的に評価するDIAAS(全卵101・WPI 109)のような現代指標で見ると、卵も引けを取らない高品質タンパク質として評価される。「BV値でホエイが卵より高品質」という単純化よりも、BVはタンパク質品質指標の一つとして参照するという理解が適切である。

Q: 現代ではBVよりPDCAASやDIAASを見るべきか

国際的な研究・栄養政策の観点では、FAOが2013年に推奨したDIAASが現時点で最も精緻な指標とされる(FAO Expert Consultation, 2013, FAO Food and Nutrition Paper 92; Moughan & Lim, 2024, Frontiers in Nutrition)。DIAASは回腸末端での消化率を採用し、高品質タンパク質間の差別化が可能で、抗栄養因子の影響も適切に反映する。PDCAASは食品ラベルや規制基準で現在も広く使われており、データの蓄積量が豊富である。BVは教育目的・歴史的な文脈で参照され続けているが、現代の食品・サプリメントの品質比較ではBVを単独で用いるよりも複数指標の中の1つとして参照する整理が一般的とされる。実用的には「DIAAS(またはPDCAAS)+アミノ酸組成」の組み合わせで評価することが一般的になっている。

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参考文献

  • Mitchell HH (1924). A method of determining the biological value of protein. Journal of Biological Chemistry, 58, 873-903.

  • Hoffman JR, Falvo MJ (2004). Protein – Which is Best? Journal of Sports Science and Medicine, 3(3), 118-130. PMCID: PMC3905294

  • FAO/WHO Expert Consultation (1991). Protein quality evaluation. FAO Food and Nutrition Paper, 51, 1-66. PMID: 1817076

  • FAO Expert Consultation (2013). Dietary protein quality evaluation in human nutrition. FAO Food and Nutrition Paper 92. Rome: Food and Agriculture Organization. PMID: 26369006

  • Mathai JK, Liu Y, Stein HH (2017). Values for digestible indispensable amino acid scores (DIAAS) for some dairy and plant proteins may better describe protein quality than values calculated using the concept for protein digestibility-corrected amino acid scores (PDCAAS). British Journal of Nutrition, 117(4), 490-499. DOI: 10.1017/S0007114517000125

  • Herreman L, Nommensen P, Pennings B, Laus MC (2020). Comprehensive overview of the quality of plant- and animal-sourced proteins based on the digestible indispensable amino acid score. Food Science & Nutrition, 8(10), 5379-5391. DOI: 10.1002/fsn3.1809

  • Schaafsma G (2012). Advantages and limitations of the protein digestibility-corrected amino acid score (PDCAAS) as a method for evaluating protein quality in human diets. British Journal of Nutrition, 108(Suppl 2), S333-S336. DOI: 10.1017/S0007114512002541

  • Boye J, Wijesinha-Bettoni R, Burlingame B (2012). Protein quality evaluation twenty years after the introduction of the protein digestibility corrected amino acid score method. British Journal of Nutrition, 108(Suppl 2), S183-S211. DOI: 10.1017/S0007114512002309

  • Moughan PJ, Lim WXJ (2024). Digestible indispensable amino acid score (DIAAS): 10 years on. Frontiers in Nutrition, 11, 1389719. DOI: 10.3389/fnut.2024.1389719

  • Phillips SM (2017). Current concepts and unresolved questions in dietary protein requirements and supplements in adults. Frontiers in Nutrition, 4, 13. DOI: 10.3389/fnut.2017.00013