β-ラクトグロブリンとは — ホエイの主要画分でありアレルゲンでもある理由

β-ラクトグロブリンはホエイタンパク質の約半分を占める主要画分で、分子量約18.3kDaのリポカリンタンパク質である。ヒトの母乳には内因性に存在せず、牛乳アレルギーの主要アレルゲンBos d 5として登録される。加水分解による抗原性低減と摂取可否の考え方を整理する。

本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。

β-ラクトグロブリン(β-Lg)はホエイタンパク質の中で最大の画分を占め、ホエイタンパク質全体のおよそ半分に相当する(Kontopidis et al., 2004, J Dairy Sci)。分子量は約18.3kDaで、リポカリンファミリーに属する球状タンパク質である。同時に、この物質はヒトの母乳には内因性に存在しないものの母体が牛乳を摂取すると母乳中に検出される報告があり(Giannetti et al., 2021, Nutrients)、牛乳アレルギーの主要アレルゲンBos d 5としてWHO/IUISアレルゲン命名法サブ委員会に登録されている。加水分解によって抗原性は低減するが消失はしない(Rosendal & Barkholt, 2000, J Dairy Sci/Klemola et al., 2002, J Pediatr)。摂取可否の判断は医師が行う事項にあたる。

β-ラクトグロブリンとは何か

β-ラクトグロブリンは、8本鎖のβバレル構造を持つ球状タンパク質で、162個のアミノ酸残基から成る。分子量は約18.3kDaで、ウシの乳タンパク質の中では比較的小さい部類に入る。Kontopidis et al.(2004, J Dairy Sci)のレビューによれば、リポカリンファミリーに属し、レチノール・脂肪酸・コレステロール・ビタミンD2といった疎水性分子を内部の空洞に取り込んで運ぶ性質を持つ。

構造的には、ジスルフィド結合が2箇所(Cys66-Cys160、Cys106-Cys119)存在し、加えて遊離のチオール基(Cys121)を1つ持つ。分岐鎖アミノ酸のロイシン・イソロイシン・バリンの比率が比較的高い点も特徴だ。生理的な役割については諸説ある。Kontopidis et al.のレビューは「子へのアミノ酸供給源」を主機能として提案しているが、これは同レビュー内の考察であって実験で確定した結論ではない。この論文自体は実験を伴わない総説であり、構造データの整理が中心である点は押さえておきたい。

WHO/IUISアレルゲン命名法サブ委員会のデータベースでは、β-ラクトグロブリンはウシ(Bos taurus)由来のアレルゲンとして「Bos d 5」に登録されている。分子量18.3kDa、登録日は2003年2月5日、最終更新は2020年5月13日。アイソアレルゲンBos d 5.0101(UniProt: P02754)として管理されている。栄養素とアレルゲンという2つの顔を、1つの分子が同時に持つ構造がここにある。

ホエイの中でどんな位置づけなのか

ホエイタンパク質はβ-ラクトグロブリン単独の物質ではなく、複数の画分からなる混合物である。β-ラクトグロブリンはその中で最大の割合を占め、おおよそ半分に相当する。残りをα-ラクトアルブミン、免疫グロブリン、血清アルブミン、ラクトフェリンなどの微量画分が構成する。

割合の数字は文献によって幅がある。Kontopidis et al.(2004, J Dairy Sci)のレビューはβ-ラクトグロブリンをホエイの主要タンパク質として位置づけているが、正確な比率は乳牛の品種・搾乳条件・分析手法によって変動する。文献間の幅は、こうした条件差を反映したものである。

ホエイタンパク質の画分構成

画分ホエイタンパク質中のおおよその割合特徴
β-ラクトグロブリン約半分最大の画分。ヒトの母乳には内因性には存在しない
α-ラクトアルブミン2割前後ヒトの母乳にも含まれる
免疫グロブリン1割前後生体防御に関わる画分
血清アルブミン1割前後血液由来のタンパク質画分
ラクトフェリンなど数%以下微量画分

割合は文献・原料・製法により幅がある。上表はあくまで目安にあたる。

α-ラクトアルブミンとの対比は興味深い。この2つはホエイの二大画分でありながら、母乳における立ち位置が正反対だからである。α-ラクトアルブミンはヒトの母乳にも天然に含まれる主要タンパク質だが、β-ラクトグロブリンはヒトの母乳には内因性には存在しない(Giannetti et al., 2021, Nutrients)。ただし、授乳中の母親が牛乳を摂取した場合、食事由来のβ-ラクトグロブリンが母乳中に移行することがあると同レビューは報告している。母乳中に「絶対に存在しない」とまでは言い切れない点には注意したい。

なぜ牛乳アレルギーの主要アレルゲンになるのか

Giannetti et al.(2021, Nutrients)のレビューは、牛乳アレルギー患者の多くがカゼイン(Bos d 8)・β-ラクトグロブリン(Bos d 5)・α-ラクトアルブミン(Bos d 4)に感作されると整理する。カゼインはウシ乳タンパク質全体の約80%を占め、加熱に対して比較的安定だ。一方でβ-ラクトグロブリンとα-ラクトアルブミンは熱に不安定な構造を持つ。ただし熱に不安定であることは、加熱すればアレルゲン性が下がることを意味しない。変性によって反応性が減る場合と、新たな構造が抗原になる場合の両方が報告されている。

ヒトの母乳に内因性には存在しないという事実は、β-ラクトグロブリンのアレルゲンとしての位置づけを考えるうえで押さえておきたい点になる。ただしこの非対称がアレルゲン性を生む直接の原因だと確定しているわけではない。Giannetti et al.(2021, Nutrients)が整理するとおり、カゼインとα-ラクトアルブミンはヒト母乳の天然成分である一方、β-ラクトグロブリンだけがこの非対称の側にある。乳児にとって、この物質との接触は牛乳・牛乳由来食品の摂取が初めてになりやすい。

なお、牛乳アレルギー患者における個々のアレルゲンへの感作率(IgE陽性率)は、年齢層や検査手法によって報告値が変動する。単一の割合をもって「この画分が何%の患者に反応する」と示せる段階にはない。

牛乳アレルギーと混同されやすいのが乳糖不耐症だが、両者はまったく別の機序による。乳アレルギーは免疫系がβ-ラクトグロブリンなどのタンパク質を異物と認識して起こる反応で、微量でも皮膚・呼吸器・消化器の症状やアナフィラキシーにつながりうる。乳糖不耐症はラクターゼ(乳糖分解酵素)の活性不足によって乳糖を消化できないために起こる消化器症状で、免疫反応ではない。詳細は乳糖不耐症の記事で扱っている。

食品表示の観点も補足しておく。消費者庁が定める特定原材料は、2026年4月1日にカシューナッツが追加されて9品目になった(えび・かに・カシューナッツ・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生。2026年8月時点)。このうち牛乳由来製品は「乳」として表示義務の対象になる。ただしこれは原材料単位での表示であり、β-ラクトグロブリンやカゼインといった個別のタンパク質画分ごとに表示が義務づけられているわけではない。成分表示を見てβ-ラクトグロブリンの有無だけを確認する、という方法は制度上成立しない。

加水分解で抗原性はどうなるのか

加水分解したプロテインであっても、乳アレルギーの人が無条件に安全というわけではない。Rosendal & Barkholt(2000, J Dairy Sci)は加水分解乳製品12種をゲル濾過・SDS-PAGE・ELISA等で分析し、全製品からELISAで検出可能な残存抗原性のβ-ラクトグロブリンを確認した(in vitro分析)。臨床データでも同様の傾向がある。Klemola et al.(2002, J Pediatr)は牛乳アレルギー確定診断を受けた乳児170例を対象に、高度加水分解ホエイフォーミュラ群と大豆フォーミュラ群に無作為割付して2歳まで追跡し、高度加水分解ホエイフォーミュラ群でも2.2%にアレルギー反応が発生した(大豆フォーミュラ群は10%)。抗原性の低減は程度の問題であって消失ではなく、摂取可否は医師の判断による事項にあたる。

この2件はいずれも乳児用の加水分解フォーミュラ(hydrolyzed milk formula)を対象としている。Rosendal & Barkholtの分析は2000年発表であり、その後の加水分解技術の変化は反映していない。

なぜ加水分解しても抗原性が残るのか。Ueno & Nakano(2016, 化学と生物)のレビューによれば、抗原性は分子全体ではなく特定のエピトープ(抗体が認識する部分構造)に依存する。加熱や酵素処理による構造変性はエピトープの活性を変化させるが、断片化されたペプチドの中にも反応性を保つ配列が残ることがある。「加水分解度を上げれば安全になる」という単純な比例関係ではない、というのがこの分野の知見の要点だ。

Rosendal & Barkholt(2000)はin vitro分析であって、ヒトが摂取した際の臨床反応を直接示すものではない。一方でKlemola et al.(2002)は乳児を対象とした前向き無作為化試験であり、高度加水分解フォーミュラでも一定割合で反応が起きるという臨床的な裏付けになっている。対象が乳児である点、成人での加水分解ホエイプロテイン摂取と条件が異なる点は留意が必要だ。いずれにせよ、加水分解プロテインの摂取可否は自己判断で決まる性質のものではなく、アレルギー専門医の診断に基づいて判断される。

よくある質問

加水分解したプロテインなら乳アレルギーでも飲めますか

そうとは言い切れない。Rosendal & Barkholt(2000)は加水分解乳製品12種すべてから残存抗原性を検出しており、Klemola et al.(2002)は乳児対象の臨床試験で高度加水分解ホエイフォーミュラ群でも2.2%にアレルギー反応が起きたと報告している。加水分解は抗原性を低減させる処理であって、消失させる処理ではない。ただしこの2件はいずれも乳児用フォーミュラを対象とした研究であり、成人が加水分解ホエイプロテインを摂取する条件とは異なる。いずれにせよ摂取可否は自己判断できるものではなく、医師の診断に基づいて判断される。

乳アレルギーと乳糖不耐症は同じものですか

別の機序による、まったく異なる状態である。乳アレルギーは免疫系がβ-ラクトグロブリンなどの牛乳タンパク質を異物と認識する反応であり、乳糖不耐症はラクターゼの活性不足によって乳糖を消化できないために起こる。前者は免疫反応、後者は消化酵素の問題だ。詳しくは乳糖不耐症とプロテインの記事を参照してほしい。

成分表示でβ-ラクトグロブリンの有無を確認できますか

できない。特定原材料(2026年4月1日にカシューナッツが追加され9品目)の表示義務は「乳」という原材料単位で課されており、β-ラクトグロブリンなど個別のタンパク質画分ごとの表示義務は存在しない。乳アレルギーがある場合、成分表示の記載だけで摂取可否を判断するのではなく、医師の診断結果に基づいて対応する必要がある。

関連記事

参考文献


本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。