風邪や発熱のときプロテインは飲んでよいのか — 罹患時に体で起きる5つの変化

感染や発熱のときは体タンパク質の異化が進む一方、食欲が落ちて摂取量そのものが減る。需要が増える方向と摂れる量が減る方向が同時に起きるため、一律の答えは出しにくい。罹患時に体で起きる5つの変化を対象集団つきで示し、急性期に何を優先するかを整理する。

本記事は公開された学術論文および公的機関の情報に基づく事実の整理であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではない。個別の健康上の判断は医師・管理栄養士等の医療専門家に相談されたい。

発熱のとき体では何が起きているのか

感染や発熱が起きると、体の中では相反する2つの変化が同時に進む。ひとつは炎症性サイトカインの働きで食欲が落ち、摂れる量そのものが減る方向。もうひとつは代謝の亢進や体タンパク質の分解が進み、需要が増える方向である。この非対称を分けて見ないと、「風邪のときは量を増やすべきか減らすべきか」という問いに単純な答えは出せない。

食欲低下の仕組みはある程度解明されている。IL-1・IL-6・TNF-αといった炎症性サイトカインが視床下部の摂食調節系に作用し、感染時特有の食欲不振(anorexia of infection)を引き起こすと報告されている(McCarthy, 2000)。この総説によれば、局所的なサイトカイン産生と中枢神経系を介した経路の両方が関与するという。つまり「食べたくない」という感覚自体が、炎症反応の一部として体の中で作られている。

一方でエネルギー消費は増える方向に動く。発熱に伴って代謝が亢進すると報告されており(Walter et al., 2016)、体は普段より多くのエネルギーを必要とする状態になる。ただしこの総説は重症患者領域を含む発熱全般の病態生理を扱うレビューであり、増加の程度を単一の数値として示してはいない。体温上昇の幅や個人差によって変動するため、確立した増加率は存在しない。

需要が増える方向と摂れる量が減る方向。この2つが同じタイミングで起きるのが、罹患時のタンパク質摂取を考えるうえでの出発点になる。

罹患時に起きる変化の整理表

起きる変化方向何が起きるか摂取判断への含意根拠(対象集団を併記)
食欲・摂取量減る炎症性サイトカインが視床下部の摂食調節に作用する摂れる量が落ちる前提で考えるMcCarthy(2000)・感染時の食欲低下に関するレビュー
安静時エネルギー消費増える発熱に伴い代謝が亢進すると報告されている(増加率は文献間で幅があり、確立した数値はない)総エネルギーの確保が優先されるWalter et al.(2016)・重症例を含む発熱の病態生理レビュー
体タンパク質の異化増える炎症下で筋タンパク質の分解が進む需要は増える方向だが、程度は病態の重さによって大きく異なるPuthucheary et al.(2013)・人工呼吸管理下のICU重症患者63名
水分・電解質失われる発汗・発熱で水分と電解質が失われる水分の確保を優先する発熱時の一般的な生理学的知見
消化機能落ちる胃腸への血流低下、嘔気・下痢を伴う場合がある固形・高濃度のものが負担になる場合がある罹患時固有の要因(詳細は既存記事へ)
  • ソート基準: 判断への影響が大きい順
  • データ取得時点: 2026年8月時点

必要量は増えるのか

需要が増える方向にあるなら、摂取量そのものを増やせばよいのか。ここが最も誤読されやすい点である。答えを出す前に、根拠となる数値がどの集団を対象にしたものかを確認する必要がある。

欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)の入院患者向け栄養ガイドラインでは、疾患による炎症・感染・創傷がある患者に対し実体重あたり1.2〜1.5g/kg/日、重症例では最大2.0g/kg/日への増量が提案されている(Thibault et al., 2021)。数字だけを見れば「風邪でも増やしたほうがよさそうだ」と読めるかもしれない。だがこの数値は病院・介護施設に入院している患者を対象にしたものであり、在宅で風邪をひいた健常な成人にそのまま当てはめられる推奨値ではない。

異化亢進の程度についても同じ注意が要る。人工呼吸管理下のICU重症患者63名を追跡した研究では、大腿直筋の横断面積が入室後7日目に平均10.3%(95%CI 6.1〜14.5%)、10日目には17.7%減少したことが超音波・生検で確認されている(Puthucheary et al., 2013)。同じ研究で、多臓器不全を伴う群の減少幅は単一臓器不全の群より大きかった(7日目でそれぞれ-15.7%、-3.0%)。この数値は集中治療を要する重症患者の知見であり、数日間の発熱・風邪症状で同程度の筋量減少が起きるという意味ではない。

本記事が確認した範囲では、健常者の急性感染症(いわゆる風邪)に特化した一律のタンパク質推奨量を示す公的ガイドラインは見当たらなかった。入院患者向けの数値をそのまま健常者の風邪に適用することは避けたほうがよい。

急性期は何を優先するのか

体で起きている変化を踏まえると、急性期にまず優先すべきは水分と最低限のエネルギーの確保になる。タンパク質の摂取量を積極的に増やす設計は、この記事が確認した根拠の範囲では支持されない。

発熱時は代謝亢進に伴って発汗が増え、水分と電解質が失われやすい状態になると報告されている(Walter et al., 2016)。加えて胃腸への血流が低下し、嘔気や下痢を伴う場合は消化機能そのものが落ちる。固形物や高濃度のプロテインドリンクが負担になる場面もあるだろう。無理に普段どおりの量を摂ろうとするより、飲める範囲・食べられる範囲を優先する考え方が急性期には合う。

罹患時に特有のこうした消化の変化とは別に、通常時の消化のしやすさ(乳糖不耐や製法による消化速度の違いなど)については既存記事で扱っている。詳しくは胃に優しいプロテインの選び方プロテインで胃もたれ・膨満感が起きる原因とはを参照してほしい。

症状が長引く場合や悪化する場合は、栄養の調整で対応しようとせず医療機関に相談する。

回復期にはどう戻すのか

食欲が戻ってくる過程で、通常の摂取量へ段階的に戻していくという整理になる。急性期に無理をして増量する必要はなく、回復のペースに合わせて食事量が自然に戻っていくのを待つ形が基本になる。

ここで区別しておきたいのは、数日間の摂取量減少と慢性的な低栄養は別物だという点である。低栄養がT細胞・NK細胞・マクロファージなど免疫細胞の機能を低下させ、感染症への脆弱性を高めることを扱った免疫学レビューがある(Alwarawrah et al., 2018)。ただしこのレビューが前提とするのは慢性的に続く低栄養状態であり、風邪で数日間食欲が落ちた程度の一時的な変化と同一視できるものではない。

なお、タンパク質摂取と免疫機能の関係(予防側の話)についてはプロテインは免疫力に関係するのかで別途整理している。回復後の日常的な摂取量の目安は1日のタンパク質摂取量は何gかを参照してほしい。

よくある質問

飲まない日が数日続いても筋肉は落ちるのか

数日間の摂取量減少と、慢性的な低栄養状態は区別して扱われる。前者は一時的な変化であり、後者のように免疫機能や筋量へ持続的な影響を及ぼすものとは性質が異なる。急性期に無理をしてプロテインを飲む理由にはなりにくい。

風邪のときは量を増やしたほうがよいのか

健常者向けに増量を支持する一律の推奨は、本記事が確認した範囲では見当たらなかった。ESPENガイドラインのような入院患者向けの数値をそのまま在宅の風邪に当てはめることはできない。

どんなときに受診すればよいか

症状が長引く場合や悪化する場合は医療機関に相談する。栄養の調整だけで対応しようとする話ではない。

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参考文献