クレアチンnon-responder(効果が出にくい体質)の生理学 — 約20〜30%が該当する科学的根拠
クレアチン補給に対する反応には個人差がある。筋内PCr増加が10mmol/kg DW未満のnon-responderは全被験者の20〜30%を占める。ベースラインPCr・TypeII繊維比率・食事由来クレアチン量の3要因と自己推定法を整理する
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クレアチン補給に対する反応には個人差があり、被験者の約20〜30%が「non-responder」に分類される(Syrotuik & Bell, 2004, Journal of Strength and Conditioning Research)。non-responderとは筋内総クレアチン(Cr + PCr)の増加が10mmol/kg dry weight(DW)未満にとどまる個体を指す。
「クレアチンが効かない」という体感の背景には、ベースラインの筋内クレアチン濃度・筋繊維タイプ・食事由来クレアチン量という3つの生理学的要因が存在する。
non-responderとは何か — 定義と頻度
Syrotuik & Bell(2004)は、クレアチン・モノハイドレート補給後の筋内総Cr+PCr増加量に基づき、responder(>20mmol/kg DW)、quasi-responder(10〜20mmol/kg DW)、non-responder(<10mmol/kg DW)の3群に分類した。non-responderは全被験者の20〜30%を占める。
この分類は筋生検による直接測定に基づいており、体感や体重変化ではなく筋内の化学的変化を基準とする。Greenhaff et al.(1993, Clinical Science)がクレアチン補給の個人差を初期に報告した論文の一つとして知られており、この分類はクレアチン研究の標準的な枠組みとして用いられている。
「効かない」とは正確にはPCr蓄積量が小さいことであり、クレアチンが体内に吸収されていないわけではない。non-responderの筋内クレアチン濃度はローディング前からベースラインが高く、上積みの余地が物理的に小さい。既にある程度の飽和状態にあるため、外部から追加しても上限に近い状態から動かないと解釈される。
| 分類 | 筋内Cr+PCr増加量 (mmol/kg DW) | TypeII繊維比率 | 頻度 |
|---|---|---|---|
| Responder | >20 | 平均63.1% | 約40〜50% |
| Quasi-responder | 10〜20 | 中間 | 約40〜50% |
| Non-responder | <10 | 平均39.5% | 約20〜30% |
※Syrotuik & Bell(2004、n=11の健康男性)の分類基準。筋生検による直接測定に基づく。サンプルサイズが小さいため頻度の一般化には限界がある。
反応性を決める3つの生理学的要因は何か
Syrotuik & Bell(2004)の分析では、responder群の平均TypeII繊維比率は63.1%であったのに対し、non-responder群は39.5%にとどまった。TypeII繊維はクレアチン貯蔵能力が高く、この繊維比率が反応性の主要な決定因子の一つである。
1. ベースラインの筋内クレアチン濃度
筋内の総クレアチン貯蔵量には上限(約160mmol/kg DW)がある。ベースラインが既に140〜150mmol/kg DWに達している個体では、ローディングしても増加幅が5〜10mmol/kgにとどまる。一方、ベースラインが低い個体(100〜120mmol/kg DW)では20mmol/kg以上の増加が可能になる。
食事由来のクレアチン摂取が多い雑食者(肉・魚を日常的に摂取)はベースラインが高い傾向にある。Burke et al.(2003, Medicine & Science in Sports & Exercise)は、ベジタリアンが雑食者よりクレアチン補給に対して大きな反応を示すことを報告している。ベジタリアンは食事由来クレアチン摂取がゼロに近いため、ベースラインが低い。
2. TypeII繊維比率
TypeII(速筋)繊維はTypeI(遅筋)繊維よりクレアチンキナーゼ活性が高く、PCr貯蔵量も多い。Syrotuik & Bell(2004)が示したresponder群63.1% vs non-responder群39.5%という差は、筋繊維組成がクレアチン反応性を直接左右することを意味する。
筋繊維組成は遺伝的な要素が大きいが、トレーニング歴によっても変動する。高強度レジスタンストレーニングを長期間継続した個体はTypeII繊維比率が高い傾向にあり、クレアチンへの反応性も高まる可能性がある。
3. 除脂肪体重と筋量
初期の除脂肪体重が小さい個体ほどクレアチン蓄積の相対的増加率が大きい。これはトレーニング初心者や筋量が少ない状態から始める場合に反応が大きくなることを示唆する。逆に、筋量が大きく長年トレーニングを積んだ上級者は、既にクレアチン代謝が効率化されているため反応が鈍い可能性がある。
自分がnon-responderかを推定するにはどうすればよいか
筋生検は非現実的なため、間接指標から反応性を推定するしかない。最も簡便な指標はローディング期(20g/日×5〜7日)での体重変化である。Hultman et al.(1996, Journal of Applied Physiology)によれば、responderではローディング期に0.5〜1.0kgの体重増加(水分貯留)が観察される。
以下のチェックリストで、自身の反応性を大まかに推定できる。
反応が大きい可能性が高い条件:
- ベジタリアン・ビーガン(食事由来クレアチンがゼロに近い)
- トレーニング歴が浅い(1年未満)
- ローディング期に体重が0.5kg以上増加した
- 高強度反復パフォーマンス(スプリント・高レップ)が向上した
反応が小さい可能性がある条件:
- 日常的に肉・魚を多量に摂取している
- トレーニング歴が長い(5年以上)
- ローディング期に体重変化がほとんどなかった
- 4〜8週間使用してもパフォーマンス変化を体感しない
Steenge et al.(2000, Journal of Applied Physiology)は、クレアチンと同時にタンパク質50g+炭水化物47gを摂取することでクレアチン保持が有意に増加すると報告している。反応が薄いと感じる場合は、食後の摂取や炭水化物・タンパク質との同時摂取を試す価値がある。
non-responderであっても、クレアチンの脳・認知機能への効果は筋反応とは独立した経路で作用する可能性が指摘されている。筋肉への効果が小さいからといって、全ての恩恵がゼロになるわけではない。
よくある質問
ベジタリアンの方がクレアチンの効果が大きいのは本当か
Burke et al.(2003, Medicine & Science in Sports & Exercise)はベジタリアンが雑食者よりクレアチン補給に対する反応が大きいことを報告している。ベジタリアンは肉・魚由来のクレアチン摂取がないためベースラインの筋内濃度が低く、上積みの余地が大きい。雑食者は1日1〜2gのクレアチンを食事から摂取しているため、ベースラインが高い状態で補給を開始する。
ローディングでnon-responderの反応は変わるか
ローディングプロトコル(20g/日×5〜7日)はクレアチンの筋内蓄積を加速させるが、non-responderをresponderに転換するわけではない。Hultman et al.(1996)によれば、ローディングで約70%の被験者が筋内Cr+PCrを20%以上増加させたが、残り30%は増加が小さかった。ローディングでも反応が見られない場合は、体質的に蓄積上限に近い状態にあると推定される。
non-responderがクレアチンを飲み続ける意味はあるか
筋内PCrの蓄積が小さくても、以下の経路で効果がある可能性がある。(1) 脳内クレアチン濃度の増加による認知機能への影響、(2) 抗酸化作用、(3) 骨代謝への間接的影響。これらは筋生検で測定される反応性とは独立した経路であり、non-responderでも恩恵がゼロとは断定できない。継続のコスト負担が気にならないなら維持する選択も合理的だが、明確な体感がなく費用が負担になる場合は中止も妥当な判断である。
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参考文献
- Syrotuik DG, Bell GJ (2004). Acute Creatine Monohydrate Supplementation: A Descriptive Physiological Profile of Responders vs. Nonresponders. Journal of Strength and Conditioning Research, 18(3), 610-617
- Greenhaff PL et al. (1993). Influence of oral creatine supplementation of muscle torque during repeated bouts of maximal voluntary exercise in man. Clinical Science, 84(5), 565-571
- Burke DG et al. (2003). Effect of creatine and weight training on muscle creatine and performance in vegetarians. Medicine & Science in Sports & Exercise, 35(11), 1946-1955
- Hultman E et al. (1996). Muscle creatine loading in men. Journal of Applied Physiology, 81(1), 232-237
- Steenge GR et al. (2000). Protein- and carbohydrate-induced augmentation of whole body creatine retention in humans. Journal of Applied Physiology, 89(3), 1165-1171
- Lanhers C et al. (2017). Creatine Supplementation and Upper Limb Strength Performance: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Medicine, 47(1), 163-175 (https://doi.org/10.1007/s40279-016-0571-4)